心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
驚いたグレイは、思わず一歩後退りしてしまう。
同じく驚いた様子のレオも、すぐにグレイに肩をくっつけて小声で話しかけてきた。
「な、何!? なんでこんなに見られてるの!?」
「俺だって聞きたい」
コソコソと話す2人がその理由に気づいたのは、こちらに近づいてくる人物が目に入ったからだ。
プラチナブロンドの髪をなびかせ、小さい歩幅で少しずつ近づいてくる、黄金の瞳を持った少女──。
マリア! そうか、もうダンスが始まるのか。
一瞬で状況を理解したグレイは、マリアに向かって歩き出す。
周りにいた貴族達は、黙ったまま移動し2人のために道を開けてくれていた。
今まさに出会おうとしている美しい少年と少女の姿に、周りは釘付けだ。
(聖女様、近くで見てもとっても綺麗で可愛いわ)
(なんてお似合いのお二人なのでしょう。つい頬が緩んでしまいますわね)
(聖女様を保護されたお若い伯爵様とは、あんなに素敵な方ですのね)
さっきと似たようなジロジロとした視線を感じるが、もうグレイに嫌悪感はなかった。
正確にいうと、どうでも良かった。
もう彼女達の目が気になることはない。
グレイはマリアの前に着くなり、片膝を立てて腰を下ろした。
まるで騎士……いや、王子のようなそのグレイの姿に、令嬢達から「まぁ……」と甘美な声が漏れる。
「お兄様……」
「マリア」
頬を少し赤らめているマリアに、グレイはスッと手を差し出した。