心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 この国には、ダンスの後にキスをする決まりでもあるのか?
 くだらないな。



 興味のないグレイは、そんなことを考えながら目の前にいるマリアに視線を戻した。
 そして、ギョッと目を見開く。

 キラキラと、眩しいくらいに輝いているマリアの黄金の瞳が、真っ直ぐにグレイを見上げていた。

 マリアだけではない。
 周りにいる令嬢達からも、期待のこもった熱い視線が向けられていることにグレイは気づいた。



 な、なんだ? この目は。
 まるで、俺にもやってほしいと思っているかのような……まさか……。



 その時、取り囲んでいる令嬢達の後ろから、レオがぴょこぴょこと飛び跳ねているのが目に入った。
 一生懸命跳ねながら、自分の手を何度もキスしている。



 何をやってるんだ、アイツは。



 グレイは冷めた氷のような視線をレオに向ける。
 


 ……いや。アイツが言いたいことはわかってる。
 俺にもやれって言ってるんだろう。



 レオの言う通りにするなんてごめんだ。
 貴族達の期待に応える義理もない。



 だが……マリアが望むのなら、やってやってもいい。



 グレイはもう一度膝をつき、マリアの小さな右手を握った。
 マリアがビクッと反応して、頬が赤くなる。
 黄金の瞳が、さらにキラキラと輝きを増す。


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