心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 ミアのキスはできないが、右手なら。



 グレイはそのままマリアの手にそっとキスをした。

 周りから「きゃーーっ」という小さな歓声が聞こえてくるが、グレイにとってはどうでもいいことだ。
 ゆっくり唇を離し、マリアの反応を確かめる。


「!?」


 顔を上げたグレイは、マリアを見て目を丸くした。
 
 マリアの全身が、黄金の光に包まれている。
 初めての光景に驚いたのも束の間、その光はパアッと周りに飛び散った。

 会場中に、黄金の光が降り注ぐ。


「まぁ……綺麗」
「なんて神秘的な光景なのでしょう」


 なんとも美しい光景に、誰もが恍惚の声を上げている。
 子どもは嬉しそうに、宙に両手を伸ばしていた。


「これは……」

「あっ、光の粒……また出ちゃった」

「光の粒?」

「あの、これにも聖女の力がちょっと入ってるって、執事さんが……」


 マリアがボソッと言った声が、周りに聞こえたらしい。
 『聖女の力が入った光の粒』を求め、会場内が一気に大混乱となった。


「きゃーーっ! 聖女様のお力ですって!」
「欲しいですわっ!!」
「これは私のだ! 触るな!」
「僕も欲しいーー!!」


 令嬢もマダムも閣下も子どもも……皆が貴族らしさを忘れ、光の粒を手に入れようと争っている。

 触れればすぐに消えてしまう光の粒。
 しかし、その一瞬で身体の不調が治ったと気づいた者は、もっと……! と求めてしまうのだった。

 所々で人がぶつかり合い、倒れている。
 若い男性の中には手が出てしまっている者もいる。

 とても高位貴族の集まりとは思えぬ大混乱の中、グレイはマリアに手を伸ばした。


「マリア、こっちに来い!」


 グレイはマリアを抱き上げると、レオと一緒に急いで会場から抜け出した。
 
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