心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 いつもならしてくれるはずの頭を撫でる行為がないことだけが気掛かりだが、それでも自分自身を離されなかったという安心感のほうが強かった。


「ただいま、お兄様」

「……そうか」

「ん?」


 再会の場面をやり直そうと、ただいまと言ったマリアに対し、グレイは何かに納得できたような声を出した。
 やけにスッキリとした声に、マリアは少しだけ顔を離してグレイを見上げる。

 グレイは自分自身の謎が解けたことが嬉しいのか、少しだけ口角が上がっていた。


「お兄様、どうしたの?」

「俺がマリアを離してしまった時、何か違和感を感じていたのだが……それが何かわかった」

「え?」

「胸だ」

「む、胸?」


 意外すぎる解答に、マリアは目をパチパチとさせた。
 グレイは「なるほど、そうか。それで……」と独り言を呟きながらも、話を続ける。


「今まで感じなかったから、突然で驚いてしまったようだ」


 レディに対し、突然胸の話をしてくる。
 今までは胸が小さかったと言っているようなもの。
 こんな失礼な話はなく、普通の令嬢であれば怒るなり呆れるなりするところだろう。

 しかし、7歳からは箱入り娘のように大切に大切に育てられたマリアは、まだよく性についてわかっていなかった。
< 515 / 765 >

この作品をシェア

pagetop