心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない
コンコンコン
「……なんだ」
「失礼いたします」
昨夜の無礼などすっかり忘れたかのように、堂々とした態度のガイルが部屋に入ってきた。
紅茶でも持ってきたのかと思ったが、手には何も持っていない。
「何か用か?」
「エドワード殿下がこれからいらっしゃるそうです」
「何?」
好ましくない名前が出て、グレイの眉間にシワが寄る。
そんな反応をされるとわかっていたのか、ガイルは遠慮する素振りもなく話を続けた。
「王宮からの早馬が来ました。マリア様と一緒に、こちらに向かっているそうです」
「はぁ……。なんて自分勝手なんだ」
約束もなく突然来るなんて、舐められたものだ。
一言目には、是非にも嫌味を言ってやろう……と思ったグレイは、ふとあることに気づいた。
……あの生意気王子は、何をしに来るんだ?
これまでに、エドワード王子は何度かこの伯爵家に来たことがある。そのどれもが、マリアに会うためであった。
しかし、今は王子とマリアはすでに会っているはずだ。
わざわざ早馬を使って来訪を伝えるということは、エドワード王子はグレイに会いに来るということになる。
そんなことは初めてだ。
あの王子、俺に話があるのか?
一体何を?
色々考えてみたが、グレイは嫌な予感しかしなかった。
「追い返せ」
「無理でございます」
冷静に即答してくるガイルをギロッと睨むと、外から騒がしい音が聞こえてきた。
どうやら王子を乗せた馬車が到着したらしい。