心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

「私、エドワード様のこと好きだよ?」

「…………え?」


 いつもクールで冷めきったグレイの瞳が、丸くなる。
 ポカンとしたグレイの表情をかわいく感じてしまったマリアは、頬を少し赤らめた。


「嫌いじゃ、ないのか?」

「嫌ってなんかないよ」

「なら、なぜ結婚を嫌がったんだ?」

「嫌っていうか、エドワード様と結婚したらお兄様と一緒に暮らせなくなるから……」


 そう正直に答えた途端、無性に恥ずかしくなりマリアはグレイから視線を外した。
 これではエドワード王子よりもグレイのほうが大事だと言っているようなものだ。グレイのほうが大好きだと伝えてしまったようなものだ。
 そう思っていたが、チラッとグレイの顔を見たマリアはギョッと驚愕した。



 お、お兄様……?



 グレイはとんでもなく険しい顔をして、ギリッと歯を食いしばっている。
 喜んでいる様子など皆無で、怒りと悔しさに震えているようだ。



 え? え? 怒ってる?



 不安になったマリアがチラッとレオに視線を向けると、レオは両手で頭を抱えていた。
 部屋の隅にいるガイルは、なぜか目を閉じて静かに立っていた。



 え? え?
 私がお兄様と一緒に暮らしたいってこと、言っちゃダメだったの?



 執務室に漂う異様な空気に、マリアは何も言えずグレイを静かに見つめた。
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