心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 今まで、マリアから色恋沙汰を避けさせていたのはグレイだ。
 まだ子どもだから。まだ知らなくていい。そう言われていたことが理由である。
 しかし、エミリーやレオ自身にもマリアはまだ幼く純粋なままでいてほしい……という気持ちがあったことも嘘ではない。


「とりあえずグレイには内緒にしておこう。書庫だったら執務室からも遠いし、そこで明日マリアに『恋愛』について教える。いいね?」

「わかりました!」


 こうして、昨夜こっそりと協定が結ばれていたのだ。
 
 現在いきなり書庫に連れてこられたはずのマリアは、どこかワクワクした様子でレオとエミリーを見上げている。
 やっとこの2人から何かを教えてもらえるのだと、喜んでいるのだ。


「それで、レオ先生? 今日は一体何を教えてくれるんですか?」

「今日は、マリアに色々な『好き』の種類を教えようと思います!」

「好きの種類……?」


 キョトンとしたマリアの机の上に、2枚の紙が置かれた。
 その紙には、『恋愛感情』『恋愛のない感情』と書かれている。

 なぜか今だけメガネをかけているレオが、わざとらしくメガネをクイッと片手で支える仕草をしながら問いかけてきた。
 これがレオの中の先生像なのだろうか──と、エミリーが温かい目で見守っていることには気づいていない。

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