心を捨てた冷徹伯爵の無自覚な初恋 〜聖女マリアにだけ態度が違いすぎる件〜

82 心臓が爆発しそうです


 どうしよう……!


 バタン!

 マリアは自室の扉を背中で押して閉めると、そのままズルズルと床に座り込んだ。
 号泣……というほどではないが、マリアの瞳からはまだポロポロと涙が出ている。



 泣いちゃった……!



 たった今、使用人もたくさんいる食堂の中で、グレイの目の前で、涙を流してしまった。
 誰かに声をかけられる前に食堂を出てきたけれど、おそらく全員に見られただろう。

 マリアは自己嫌悪のため息をつきつつ、心の中で言い訳をした。



 だって、お兄様がパートナーの方にドレスを贈るなんて言うから。
 想像したら悲しくなっちゃって……ああ、でもあそこでいきなり泣いたら、みんな変に思うよね?



 涙を流す自分を見て、目を丸くして驚いていたグレイの顔が頭から離れない。

 次に会った時には、きっとあれはなんだったのかと聞かれてしまうだろう。
 その時はなんて答えればいいのか……マリアは考えるだけで憂鬱だった。

 コンコンコン


「マリア様。エミリーです。入ってもよろしいでしょうか?」

「エミリー……」


 扉のすぐ前に座っていたマリアは、立ち上がって扉を開けた。
 今はもう涙は止まっているが、自分が情けない顔をしていることはなんとなくわかる。少し恥ずかしいと思いながらも、相手がエミリーだったためなんの抵抗もなく顔を出せた。


「マリア様、大丈夫ですか?」

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