心を捨てた冷徹伯爵は聖女(義妹)を溺愛していることに気づいてない

 案の定、エミリーはマリアの顔を見るなり一気に心配そうな表情に変わった。
 余程酷い顔をしているのだろう。
 

「うん……いきなり飛び出してごめんね」

「いえ! あの、食事はどうされますか? もし少しでも召し上がれるのであれば、お部屋に運んで……」


 話しているエミリーが、ずっと腕を後ろに隠している。
 その不自然さに気づいた時、彼女が何かを持っているのがチラッと見えた。
 先ほどグレイから手渡されていた、例のドレスのカタログだ。
 


 エミリー……もしかして、私に見えないように隠してる?



 そう考えた時、マリアは違和感を覚えた。
 なぜ、わざわざ自分にカタログを見せないようにしているのか。
 それは、マリアが泣いた理由がカタログに関係していると知っているからではないのか……と。



 私のお兄様への気持ち、知られてる……?



「食事は今は大丈夫。それより……」

「マリアッ!」

「!」


 マリアがエミリーに問いかけようとした時、廊下の奥から走ってくる人物が見えた。……レオだ。

 目の前にやって来たレオは、息切れしながらも心配そうにマリアを見てくる。
 こちらも原因不明のマリアの行動に戸惑っているというよりは、その原因をわかった上で心配している顔だ。


「マリア……あの、大丈夫? グレイは俺が怒っておいたから!」



 泣いた理由も聞かずに、お兄様を怒ったって……。
 もしかして、レオも私の気持ちに気づいてる?


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