運命の人
一目惚れ?
 「ふぅ」

 電車の座席に腰を下ろした時、ため息が出てしまった。
 それは1週間働いた、金曜日の夜の22時過ぎだからというわけではない。
 製薬会社のMRとして働き始めて四年目。26歳の私、樋口澪の今日の1日は内勤業務に始まり、企業訪問、昼食、企業訪問、内勤業務、同期との食事と続いた。
 体力には自信がある方だけど最後の同期の愚痴が思っていたよりも重くて疲労感が増幅。
 明日の貴重な休みはきっと睡眠で無くなることだろう。
 もっとも何の予定も入っていないのだから体を休めてあげるのが一番なんだけど。

 「なんか虚しい」

 心の声が口から溢れ出てしまった。
 ハッとして隣に座っているスーツの男性を見ると腕を組み、下を向いた姿勢のまま動かずにいた。

 (お疲れ様です)

 下を向いているのではっきりとはわからないけど、見た感じ、年齢は同年代くらい。
 知らない人だけど、疲労困憊同士。心の中でねぎらいの言葉をかけた。
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