【マンガシナリオ】私のイチバンボシ
第十二話 推しとデート
○道路・車内(朝)
陽斗が運転する車内。
えま、助手席から落ち着かない様子で陽斗をチラッと見る。
えま「お菓子持って来たので、何か食べたいものあったら言ってくださいね」
陽斗「何があるの?」
えま「えーっと。飴、グミ、チョコ、あと歌舞伎揚げです」
陽斗「チョコ欲しいかも」
えま「はーい」
陽斗、口を開けて待っている。
えま、ゴクリと唾を飲み込み、チョコを陽斗の口の中に入れる。
陽斗「ありがと」
えま「いえ!」
えま、運転する陽斗の横顔をうっとり見つめる。
○(えまの妄想)車内
CMの撮影。
山沿いの道を運転する陽斗。
田中N「雨の日も晴れの日も。俺は相棒と走り続ける」
陽斗、歯を見せて笑う。
(えまの妄想終了)
○道路・車内(朝)
陽斗「えま? えーま。えまってば」
えま、我に返る。
えま「あ、はいっ!」
陽斗「カーリーがチョコ食べそうな勢いだよ」
カーリーがお菓子に反応して鼻をくんくんさせている。
えま「ダメダメ。カーリーはこっちね」
えま、犬用のおやつをカーリーにあげる。
えま「陽斗くんプライベートでもドライブとか結構するんですか?」
陽斗「そうだね。丸1日オフあったらドライブ行くことが多いかも。誰かメンバー乗せて」
えま「なんかごめんなさい。せっかくのお休みなのに……しかも今日って本当は引っ越しのためのお休みだったんですよね?」
陽斗「なんで? 俺今日すごい楽しみにしてたんだよ。ドラマとツアー終わったら3日休みもらうっていうのはマネージャーと元々約束してて、引っ越しは、まぁあと2日でなんとかなる!」
えま「(嬉しそうに)私も、すごく楽しみにしてました!」
陽斗、前を見ながらニコッと笑う。
陽斗「なんか曲かける?」
えま「私かけますよ! 何がいいですか?」
えま、自分のスマホを取り出す。
陽斗「選曲はえまに任せる」
えま「私に任されると自動的にユニクラの曲になりますけど……?」
陽斗「そうだったー! ちょっと恥ずかしいけど、でもいいよ。逆にユニクラ縛りでいこう」
えま「じゃあ私的ドライブにぴったりな曲チョイスしますね」
えま、曲を流す。
陽斗「あーー! 俺もこれ思ってた!」
えまと陽斗、体でリズムを取ながら口ずさむ。
えま「この距離で生歌ドライブは豪華すぎます! お金払わせてください!」
陽斗、プッと吹き出す。
陽斗「お金払いますは笑う。俺このパートじゃないから緊張したぁ」
えま「そうですよね! 私超レアな歌聴けちゃったってことだ~!」
陽斗、えまの横顔をチラッと見て口角を上げる。
○草津温泉・温泉街
湯煙に包まれた広場。
観光客が写真を撮ったりハンディグルメを食べている。
○同・駐車場
えま、車の外に出る。
えま「すごい湯煙! ゆで卵の匂いだ!」
陽斗、帽子を被る。
陽斗「じゃあ行きますか。それよりお腹空かない?」
えま「空きました!」
陽斗「先にお昼にしよっか」
えま「私色々調べて来たんですけど……」
陽斗、えまのスマホを覗き込む。
陽斗「やっぱ蕎麦屋多いよね」
えま「麺だとすぐお腹空いちゃいますか?」
陽斗「お昼蕎麦にして、温泉街で色々買って食べるのは?」
えま「そうですね。そうしましょう!」
えま、カーリーを下ろしてリードを持ち歩き出す。
○蕎麦屋・店内
えまと陽斗、2人がけの席に座る。
カーリー、床に丸まる。
店員「お待たせしました。焼きネギ蕎麦のお客様」
陽斗、えまの方に手を向ける。
えま「はい」
と、小さく手を挙げる。
店員、えまの前にお盆を置く。
店員「こちらが天せいろになります」
店員、陽斗の前にもお盆を置く。
陽斗、頭を下げる。
店員「ごゆっくりどうぞ」
と、下がる。
えま「すごい天ぷらですね!」
陽斗「えまも食べなよ」
陽斗、天ぷらのお皿を机の真ん中に置く。
えま「(目を輝かせて)え~! いいんですか⁉︎」
陽斗「天ぷら好き?」
えま「大好きです! 迷ったんですけど、全部食べきれるか分かんなかったし、焼きネギ蕎麦にも惹かれちゃって……」
陽斗「食べれなかったら俺が食べたのに」
えま「陽斗くんて結構ご飯モリモリ食べますよね」
陽斗「そうかも。メンバーの中でも柊也の次に食べる方だし」
えま「陽斗くん、美味しい美味しいってたくさん食べてくれるから嬉しいってママがずっと言ってました」
陽斗「それは美香さんのご飯がめちゃ美味いからね」
えま「うわぁ、さすが! 彼氏にしたいランキングと結婚したいランキングダブル1位に輝いた男! 女子の心を掴む言葉を分かってらっしゃる」
陽斗「(照れながら)どーもどーも、ありがとうございます」
えま「照れるの可愛い」
えま、ニヤニヤしながら陽斗を見る。
陽斗「こっち見んなー」
陽斗、えまの前に手を伸ばす。
えま「向かい合って座ってるのにそれはムリですよ」
えま、フフッと笑う。
× × ×
机のお皿が片付いている。
陽斗「そろそろ出るか」
えま「はい!」
えま、バッグから財布を取り出して伝票に手を伸ばす。
陽斗、伝票を前から取って立ち上がる。
えま「あ、ちょっ!」
陽斗「(笑いながら)払わせるわけないじゃん」
陽斗、立ち上がってレジに向かう。
えま、慌てて陽斗を追いかける。
○同・店の外
えま「ごちそうさまでした」
と、お辞儀する。
陽斗「いーえ」
えま「温泉街は私が出しますから! 運転もしてもらってるし申し訳なさすぎます!」
陽斗「じゃあそれはえまに奢ってもらおうかな」
えま「もちろんです! 何食べますか?」
陽斗「俺さ、この鮎の串食べたいんだよね」
陽斗、スマホで写真を見せる。
えま「私もこれ見ました。多分あっちの方にあります!」
陽斗「食べたばっかりだけどいける?」
えま「鮎くらいなら全然大丈夫です!」
陽斗「良かった。そういえばえまも朝からしっかり食べるよね。ほら最近の子は朝ごん抜いたりする子が多いって聞くじゃん?」
えま「……それ言わないでください! いつもつい食べ過ぎちゃうの気にしてるんですからぁー」
えま、肩を落とす。
陽斗「なんで? ご飯ちゃんと食べるってすごくいいことじゃん。健やかでよろしい」
陽斗、えまの頭を撫でる。
えま、赤くなった顔を隠すように帽子を深く被る。
陽斗「でも美香さんのご飯はつい食べ過ぎちゃうのも無理はないよ」
えま「ですよね⁉︎ そうだ仕方ない。ママのご飯が美味しすぎるのがいけないんだ!」
えまと陽斗とカーリー、話しながら歩く。
○草津温泉街・串焼き屋前
えまと陽斗、鮎の串を購入。
えま「いただきまーす」
陽斗、えまにスマホを向けて食べている様子を動画で撮影。
陽斗「どう?」
えま「めちゃくちゃ美味しいです! 陽斗くんも食べてください」
えま、陽斗のスマホを貰って陽斗に向ける。
えま「では食リポをお願いします」
陽斗「んー! なんかこのふっくらとした身とこの塩加減が……美味いです……ねぇ、もう1回やっていい?」
えま「今ので全然いいと思いますよ? さすがです」
えま、クスクス笑う。
陽斗「笑ってんじゃん!」
えま「アハハ、だってぇ~」
カーリー、2人の足元で吠える。
陽斗「ごめんな。カーリーには味が濃すぎるからダメなんだ」
陽斗、しゃがんでカーリーを撫でる。
えま「カーリーはこっちね」
えま、陽斗の隣にしゃがんで犬用のおやつをあげる。
カーリー、夢中で食べる。
○同・広場
えまと陽斗、足湯に浸かる。
○同・土産物屋
えまと陽斗、お土産を選ぶ。
○同・車内(夕方)
えまと陽斗とカーリー、車に乗り込む。
陽斗「帰りにちょっと実家寄っていい? 誰もいないらしいんだけどお土産だけ置いてきたくて」
えま「もちろんです! うちのお土産まで買ってもらっちゃってすみません……結局私が買ったのって鮎の串だけじゃないですか!」
陽斗「だって、今日は居候させてもらったお礼だからさ」
えま「お礼なんてそんな……」
陽斗「というのはまぁただの口実で。本当は普通にえまと出かけたかっただけなんだけどね」
えま「え……?」
陽斗、ニコっと笑う。
陽斗「さ、帰ろ!」
えま「……はい」
陽斗、車を発進させる。
えま、陽斗を意識している顔。
○道路・車内(夕方)
陽斗「本当はさ、女の子が喜びそうなオシャレな店探そうと思ってたんだけど。俺大和みたいにそういうのあんま詳しくないし。メンバーに聞いたりもしたんだけど、結局俺がちゃんとリードできることの方がいいんじゃないかって言われてドライブにしたんだ。俺ばっか楽しくてえまに楽しんでもらえたか自信ないけど」
陽斗、苦笑いする。
えま「そんなことないです! 私も……私の方が楽しんでました!」
陽斗「いや、俺の方が楽しんでたよ」
えま「絶対私です!」
えま、運転する陽斗を見つめる。
陽斗「フッ……えまってこういう時負けず嫌いだよな」
えま「陽斗くんはこういう時大人気ないです!」
陽斗「そうかなぁ~? 俺立派な大人なんだけどな」
陽斗、運転しながらくしゃっと笑う。
えま、陽斗の横顔を儚げに見つめる。
えま「……私、単純だから……」
と、呟く。
陽斗「単純だから……?」
えま、ふと我に返る。
えま「あれっ。何言おうとしたんだっけなぁ!」
と、誤魔化す。
陽斗「なんだそれ。頑張って思い出してよ」
と、優しく笑う。
えま、目を閉じて静かに深呼吸する。
○陽斗の実家・外観(夜)
車が停止する。
陽斗「ちょっと待っててね」
陽斗、ベルトを外して車を降りる。
えま、窓から家の外観を見る。
2階建ての新しい戸建て住宅。
門には【田中】の表札。
えま「これが陽斗くんの生家……」
えま、お参りのように手を合わせる。
えま「(陽斗くんの引っ越しが決まって良かったかもしれない。これ以上一緒にいたら、私……)」
カーリー、「くぅん」と鳴いて不思議そうな顔でえまを見る。
えま、シフトノブに手を伸ばしてそっと触れる。
ドアが開く音と共に慌てて手を引っ込める。
陽斗が車に戻って来る。
陽斗「お待たせ」
陽斗、シートベルトを締めて車を出す。
○道路・車内(夜)
えま「陽斗くんのお家、すごい新しいですね」田中「1回全部リフォームしたんだよね。俺も姉ちゃんも実家出たからその時に」
えま「なるほど」
陽斗、窓の外の隅田川をチラッと見る。
陽斗「懐かしいなぁ。俺よくこの川沿いでサッカーの練習してたんだ。夏は涼しいし、冬は星がちょこっと見えたりして」
えま「この川沿いってよくドラマのロケとかしてる所ですよね?」
陽斗「そうそう。昔はこんなに整備されてなかったけどね」
えま「今度カーリーと散歩しに来ようかな」
陽斗「それいいかも。広いからカーリーも喜ぶよ」
カーリー、えまの膝の上で気持ちよさそうに眠っている。
えま「本人は夢の中みたいです」
陽斗、カーリーを見て、
陽斗「はしゃぎ回ってたもんね」
えま、頷きながらカーリーを撫でる。
○宮本家・リビングダイニング(夜)
えま「ただいまー!」
カーリーを抱いたえまと陽斗がリビングに入って来る。
美香「お帰り~! 陽斗くんありがとうね」
美香、えまからカーリーを預かる。
美香「ご飯できてるけど2人ともお腹空いてる?」
えまと陽斗、顔を見合わせて、
えま「うん!」
陽斗「もうペコペコです」
美香「(笑って)良かった。カーリーは先にちゃちゃっとお風呂入っちゃおうね」
カーリー、嫌そうな顔をする。
○同・リビングダイニング(夜)
えまと陽斗、ダイニングテーブルで夜ご飯を食べながら今日の出来事を美香に話す。
美香、楽しそうに話しを聞く。
○同・陽斗の部屋の前(朝)
えま、陽斗の部屋のドアをノックする。
陽斗の声「はーい」
えま、ドアを開ける。
えま「陽斗くん、何か手伝うことありますか?」
陽斗「とりあえず大丈夫かな。荷物はほとんど事務所に置かせてもらってたし、ここから持って行くものはこれで収まりそう」
陽斗、パッキング済みのスーツケースを触る。
○同・玄関(朝)
えまと美香とカーリー、玄関で陽斗を見送る。
陽斗「本当にお世話になりました」
陽斗、頭を下げる。
美香「こちらこそ。あの人が無理やりうちに連れて来なきゃ、陽斗くんホテルとかでゆっくりできたのに。ごめんね?」
陽斗「いえいえ。むしろすっかり実家みたいにくつろいじゃってすみませんでした」
美香「忙しいと思うけどムリしないでね。部屋はいつでも空いてるから、また遊びに来てね。ご飯だけでもいいのよ!」
陽斗「美香さんのご飯恋しくなってすぐ来ちゃいそうです」
美香「もう、陽斗くんったら~」
美香、嬉しそうにしているとスマホが鳴る。
美香「あら、電話。ちょっとごめんね」
美香、その場を離れる。
陽斗、えまの方を向く。
陽斗「……えまも色々ありがとね。えまのおかげですごく楽しかった」
えま「私は何も……なんかいまだに陽斗くんが目の前にいるのが信じられなくて、夢見てるんじゃないかって思っちゃいます」
陽斗「(冗談まじりに)田中陽斗から担降りしようとかなってない? 大丈夫?」
えま「……それが、実は最近大くんのことが……」
陽斗「(焦りながら)は? それリアルガチな話……?」
えま「(悪戯顔で)なーんて! 冗談です!」
陽斗「なんだよー!」
えま「フフッ。何があっても担降りなんてしません! 今までもこれからも、私はずっと田中担ですから!」
陽斗「そういうの心臓に悪いって。マジで焦ったじゃん!」
陽斗、ホッとする。
えま「そんな私1人減ったくらい大したことないですよ~ファンクラブの会員数もどんどん増えてますし!」
陽斗「そんなことないよ。俺にとって大切な1人だから」
えま「……」
えまと陽斗、見つめ合う。
陽斗、真剣な顔でえまに一歩近づく。
陽斗「あのさ、えま」
えま「……はい」
陽斗「俺……」
陽斗が言葉を続けようとするとカーリーが吠える。
カーリー「ワンッワンッ!」
えまと陽斗、互いに1歩下がる。
美香の足音が聞こえてくる。
美香「あ、良かった陽斗くんまだ行ってなかった!」
美香が戻って来る。
陽斗、ニコっと笑う。
陽斗「そろそろ行きます。本当にお世話になりました」
美香「またね~」
と、手を振る。
えま、放心した顔で手を振る。
ドアが閉まる直前にえまと陽斗の視線が絡む。
ドアがバタンと閉まる。
えま「(さっき、なんて言おうとしてたんだろう)
と、ドアを見つめる。
美香、えまを見て、
美香「もしかして、ママ邪魔しちゃった?」
えま「(上ずった声で)な、何がッ?」
えま、部屋に戻って行く。
美香、ワクワクした顔で、
美香「ねぇ、あの2人どうしたの?」
と、足元のカーリーに話しかける。
カーリー、嬉しそうに廊下を走って行く。
美香、ふむふむと頷く。
陽斗が運転する車内。
えま、助手席から落ち着かない様子で陽斗をチラッと見る。
えま「お菓子持って来たので、何か食べたいものあったら言ってくださいね」
陽斗「何があるの?」
えま「えーっと。飴、グミ、チョコ、あと歌舞伎揚げです」
陽斗「チョコ欲しいかも」
えま「はーい」
陽斗、口を開けて待っている。
えま、ゴクリと唾を飲み込み、チョコを陽斗の口の中に入れる。
陽斗「ありがと」
えま「いえ!」
えま、運転する陽斗の横顔をうっとり見つめる。
○(えまの妄想)車内
CMの撮影。
山沿いの道を運転する陽斗。
田中N「雨の日も晴れの日も。俺は相棒と走り続ける」
陽斗、歯を見せて笑う。
(えまの妄想終了)
○道路・車内(朝)
陽斗「えま? えーま。えまってば」
えま、我に返る。
えま「あ、はいっ!」
陽斗「カーリーがチョコ食べそうな勢いだよ」
カーリーがお菓子に反応して鼻をくんくんさせている。
えま「ダメダメ。カーリーはこっちね」
えま、犬用のおやつをカーリーにあげる。
えま「陽斗くんプライベートでもドライブとか結構するんですか?」
陽斗「そうだね。丸1日オフあったらドライブ行くことが多いかも。誰かメンバー乗せて」
えま「なんかごめんなさい。せっかくのお休みなのに……しかも今日って本当は引っ越しのためのお休みだったんですよね?」
陽斗「なんで? 俺今日すごい楽しみにしてたんだよ。ドラマとツアー終わったら3日休みもらうっていうのはマネージャーと元々約束してて、引っ越しは、まぁあと2日でなんとかなる!」
えま「(嬉しそうに)私も、すごく楽しみにしてました!」
陽斗、前を見ながらニコッと笑う。
陽斗「なんか曲かける?」
えま「私かけますよ! 何がいいですか?」
えま、自分のスマホを取り出す。
陽斗「選曲はえまに任せる」
えま「私に任されると自動的にユニクラの曲になりますけど……?」
陽斗「そうだったー! ちょっと恥ずかしいけど、でもいいよ。逆にユニクラ縛りでいこう」
えま「じゃあ私的ドライブにぴったりな曲チョイスしますね」
えま、曲を流す。
陽斗「あーー! 俺もこれ思ってた!」
えまと陽斗、体でリズムを取ながら口ずさむ。
えま「この距離で生歌ドライブは豪華すぎます! お金払わせてください!」
陽斗、プッと吹き出す。
陽斗「お金払いますは笑う。俺このパートじゃないから緊張したぁ」
えま「そうですよね! 私超レアな歌聴けちゃったってことだ~!」
陽斗、えまの横顔をチラッと見て口角を上げる。
○草津温泉・温泉街
湯煙に包まれた広場。
観光客が写真を撮ったりハンディグルメを食べている。
○同・駐車場
えま、車の外に出る。
えま「すごい湯煙! ゆで卵の匂いだ!」
陽斗、帽子を被る。
陽斗「じゃあ行きますか。それよりお腹空かない?」
えま「空きました!」
陽斗「先にお昼にしよっか」
えま「私色々調べて来たんですけど……」
陽斗、えまのスマホを覗き込む。
陽斗「やっぱ蕎麦屋多いよね」
えま「麺だとすぐお腹空いちゃいますか?」
陽斗「お昼蕎麦にして、温泉街で色々買って食べるのは?」
えま「そうですね。そうしましょう!」
えま、カーリーを下ろしてリードを持ち歩き出す。
○蕎麦屋・店内
えまと陽斗、2人がけの席に座る。
カーリー、床に丸まる。
店員「お待たせしました。焼きネギ蕎麦のお客様」
陽斗、えまの方に手を向ける。
えま「はい」
と、小さく手を挙げる。
店員、えまの前にお盆を置く。
店員「こちらが天せいろになります」
店員、陽斗の前にもお盆を置く。
陽斗、頭を下げる。
店員「ごゆっくりどうぞ」
と、下がる。
えま「すごい天ぷらですね!」
陽斗「えまも食べなよ」
陽斗、天ぷらのお皿を机の真ん中に置く。
えま「(目を輝かせて)え~! いいんですか⁉︎」
陽斗「天ぷら好き?」
えま「大好きです! 迷ったんですけど、全部食べきれるか分かんなかったし、焼きネギ蕎麦にも惹かれちゃって……」
陽斗「食べれなかったら俺が食べたのに」
えま「陽斗くんて結構ご飯モリモリ食べますよね」
陽斗「そうかも。メンバーの中でも柊也の次に食べる方だし」
えま「陽斗くん、美味しい美味しいってたくさん食べてくれるから嬉しいってママがずっと言ってました」
陽斗「それは美香さんのご飯がめちゃ美味いからね」
えま「うわぁ、さすが! 彼氏にしたいランキングと結婚したいランキングダブル1位に輝いた男! 女子の心を掴む言葉を分かってらっしゃる」
陽斗「(照れながら)どーもどーも、ありがとうございます」
えま「照れるの可愛い」
えま、ニヤニヤしながら陽斗を見る。
陽斗「こっち見んなー」
陽斗、えまの前に手を伸ばす。
えま「向かい合って座ってるのにそれはムリですよ」
えま、フフッと笑う。
× × ×
机のお皿が片付いている。
陽斗「そろそろ出るか」
えま「はい!」
えま、バッグから財布を取り出して伝票に手を伸ばす。
陽斗、伝票を前から取って立ち上がる。
えま「あ、ちょっ!」
陽斗「(笑いながら)払わせるわけないじゃん」
陽斗、立ち上がってレジに向かう。
えま、慌てて陽斗を追いかける。
○同・店の外
えま「ごちそうさまでした」
と、お辞儀する。
陽斗「いーえ」
えま「温泉街は私が出しますから! 運転もしてもらってるし申し訳なさすぎます!」
陽斗「じゃあそれはえまに奢ってもらおうかな」
えま「もちろんです! 何食べますか?」
陽斗「俺さ、この鮎の串食べたいんだよね」
陽斗、スマホで写真を見せる。
えま「私もこれ見ました。多分あっちの方にあります!」
陽斗「食べたばっかりだけどいける?」
えま「鮎くらいなら全然大丈夫です!」
陽斗「良かった。そういえばえまも朝からしっかり食べるよね。ほら最近の子は朝ごん抜いたりする子が多いって聞くじゃん?」
えま「……それ言わないでください! いつもつい食べ過ぎちゃうの気にしてるんですからぁー」
えま、肩を落とす。
陽斗「なんで? ご飯ちゃんと食べるってすごくいいことじゃん。健やかでよろしい」
陽斗、えまの頭を撫でる。
えま、赤くなった顔を隠すように帽子を深く被る。
陽斗「でも美香さんのご飯はつい食べ過ぎちゃうのも無理はないよ」
えま「ですよね⁉︎ そうだ仕方ない。ママのご飯が美味しすぎるのがいけないんだ!」
えまと陽斗とカーリー、話しながら歩く。
○草津温泉街・串焼き屋前
えまと陽斗、鮎の串を購入。
えま「いただきまーす」
陽斗、えまにスマホを向けて食べている様子を動画で撮影。
陽斗「どう?」
えま「めちゃくちゃ美味しいです! 陽斗くんも食べてください」
えま、陽斗のスマホを貰って陽斗に向ける。
えま「では食リポをお願いします」
陽斗「んー! なんかこのふっくらとした身とこの塩加減が……美味いです……ねぇ、もう1回やっていい?」
えま「今ので全然いいと思いますよ? さすがです」
えま、クスクス笑う。
陽斗「笑ってんじゃん!」
えま「アハハ、だってぇ~」
カーリー、2人の足元で吠える。
陽斗「ごめんな。カーリーには味が濃すぎるからダメなんだ」
陽斗、しゃがんでカーリーを撫でる。
えま「カーリーはこっちね」
えま、陽斗の隣にしゃがんで犬用のおやつをあげる。
カーリー、夢中で食べる。
○同・広場
えまと陽斗、足湯に浸かる。
○同・土産物屋
えまと陽斗、お土産を選ぶ。
○同・車内(夕方)
えまと陽斗とカーリー、車に乗り込む。
陽斗「帰りにちょっと実家寄っていい? 誰もいないらしいんだけどお土産だけ置いてきたくて」
えま「もちろんです! うちのお土産まで買ってもらっちゃってすみません……結局私が買ったのって鮎の串だけじゃないですか!」
陽斗「だって、今日は居候させてもらったお礼だからさ」
えま「お礼なんてそんな……」
陽斗「というのはまぁただの口実で。本当は普通にえまと出かけたかっただけなんだけどね」
えま「え……?」
陽斗、ニコっと笑う。
陽斗「さ、帰ろ!」
えま「……はい」
陽斗、車を発進させる。
えま、陽斗を意識している顔。
○道路・車内(夕方)
陽斗「本当はさ、女の子が喜びそうなオシャレな店探そうと思ってたんだけど。俺大和みたいにそういうのあんま詳しくないし。メンバーに聞いたりもしたんだけど、結局俺がちゃんとリードできることの方がいいんじゃないかって言われてドライブにしたんだ。俺ばっか楽しくてえまに楽しんでもらえたか自信ないけど」
陽斗、苦笑いする。
えま「そんなことないです! 私も……私の方が楽しんでました!」
陽斗「いや、俺の方が楽しんでたよ」
えま「絶対私です!」
えま、運転する陽斗を見つめる。
陽斗「フッ……えまってこういう時負けず嫌いだよな」
えま「陽斗くんはこういう時大人気ないです!」
陽斗「そうかなぁ~? 俺立派な大人なんだけどな」
陽斗、運転しながらくしゃっと笑う。
えま、陽斗の横顔を儚げに見つめる。
えま「……私、単純だから……」
と、呟く。
陽斗「単純だから……?」
えま、ふと我に返る。
えま「あれっ。何言おうとしたんだっけなぁ!」
と、誤魔化す。
陽斗「なんだそれ。頑張って思い出してよ」
と、優しく笑う。
えま、目を閉じて静かに深呼吸する。
○陽斗の実家・外観(夜)
車が停止する。
陽斗「ちょっと待っててね」
陽斗、ベルトを外して車を降りる。
えま、窓から家の外観を見る。
2階建ての新しい戸建て住宅。
門には【田中】の表札。
えま「これが陽斗くんの生家……」
えま、お参りのように手を合わせる。
えま「(陽斗くんの引っ越しが決まって良かったかもしれない。これ以上一緒にいたら、私……)」
カーリー、「くぅん」と鳴いて不思議そうな顔でえまを見る。
えま、シフトノブに手を伸ばしてそっと触れる。
ドアが開く音と共に慌てて手を引っ込める。
陽斗が車に戻って来る。
陽斗「お待たせ」
陽斗、シートベルトを締めて車を出す。
○道路・車内(夜)
えま「陽斗くんのお家、すごい新しいですね」田中「1回全部リフォームしたんだよね。俺も姉ちゃんも実家出たからその時に」
えま「なるほど」
陽斗、窓の外の隅田川をチラッと見る。
陽斗「懐かしいなぁ。俺よくこの川沿いでサッカーの練習してたんだ。夏は涼しいし、冬は星がちょこっと見えたりして」
えま「この川沿いってよくドラマのロケとかしてる所ですよね?」
陽斗「そうそう。昔はこんなに整備されてなかったけどね」
えま「今度カーリーと散歩しに来ようかな」
陽斗「それいいかも。広いからカーリーも喜ぶよ」
カーリー、えまの膝の上で気持ちよさそうに眠っている。
えま「本人は夢の中みたいです」
陽斗、カーリーを見て、
陽斗「はしゃぎ回ってたもんね」
えま、頷きながらカーリーを撫でる。
○宮本家・リビングダイニング(夜)
えま「ただいまー!」
カーリーを抱いたえまと陽斗がリビングに入って来る。
美香「お帰り~! 陽斗くんありがとうね」
美香、えまからカーリーを預かる。
美香「ご飯できてるけど2人ともお腹空いてる?」
えまと陽斗、顔を見合わせて、
えま「うん!」
陽斗「もうペコペコです」
美香「(笑って)良かった。カーリーは先にちゃちゃっとお風呂入っちゃおうね」
カーリー、嫌そうな顔をする。
○同・リビングダイニング(夜)
えまと陽斗、ダイニングテーブルで夜ご飯を食べながら今日の出来事を美香に話す。
美香、楽しそうに話しを聞く。
○同・陽斗の部屋の前(朝)
えま、陽斗の部屋のドアをノックする。
陽斗の声「はーい」
えま、ドアを開ける。
えま「陽斗くん、何か手伝うことありますか?」
陽斗「とりあえず大丈夫かな。荷物はほとんど事務所に置かせてもらってたし、ここから持って行くものはこれで収まりそう」
陽斗、パッキング済みのスーツケースを触る。
○同・玄関(朝)
えまと美香とカーリー、玄関で陽斗を見送る。
陽斗「本当にお世話になりました」
陽斗、頭を下げる。
美香「こちらこそ。あの人が無理やりうちに連れて来なきゃ、陽斗くんホテルとかでゆっくりできたのに。ごめんね?」
陽斗「いえいえ。むしろすっかり実家みたいにくつろいじゃってすみませんでした」
美香「忙しいと思うけどムリしないでね。部屋はいつでも空いてるから、また遊びに来てね。ご飯だけでもいいのよ!」
陽斗「美香さんのご飯恋しくなってすぐ来ちゃいそうです」
美香「もう、陽斗くんったら~」
美香、嬉しそうにしているとスマホが鳴る。
美香「あら、電話。ちょっとごめんね」
美香、その場を離れる。
陽斗、えまの方を向く。
陽斗「……えまも色々ありがとね。えまのおかげですごく楽しかった」
えま「私は何も……なんかいまだに陽斗くんが目の前にいるのが信じられなくて、夢見てるんじゃないかって思っちゃいます」
陽斗「(冗談まじりに)田中陽斗から担降りしようとかなってない? 大丈夫?」
えま「……それが、実は最近大くんのことが……」
陽斗「(焦りながら)は? それリアルガチな話……?」
えま「(悪戯顔で)なーんて! 冗談です!」
陽斗「なんだよー!」
えま「フフッ。何があっても担降りなんてしません! 今までもこれからも、私はずっと田中担ですから!」
陽斗「そういうの心臓に悪いって。マジで焦ったじゃん!」
陽斗、ホッとする。
えま「そんな私1人減ったくらい大したことないですよ~ファンクラブの会員数もどんどん増えてますし!」
陽斗「そんなことないよ。俺にとって大切な1人だから」
えま「……」
えまと陽斗、見つめ合う。
陽斗、真剣な顔でえまに一歩近づく。
陽斗「あのさ、えま」
えま「……はい」
陽斗「俺……」
陽斗が言葉を続けようとするとカーリーが吠える。
カーリー「ワンッワンッ!」
えまと陽斗、互いに1歩下がる。
美香の足音が聞こえてくる。
美香「あ、良かった陽斗くんまだ行ってなかった!」
美香が戻って来る。
陽斗、ニコっと笑う。
陽斗「そろそろ行きます。本当にお世話になりました」
美香「またね~」
と、手を振る。
えま、放心した顔で手を振る。
ドアが閉まる直前にえまと陽斗の視線が絡む。
ドアがバタンと閉まる。
えま「(さっき、なんて言おうとしてたんだろう)
と、ドアを見つめる。
美香、えまを見て、
美香「もしかして、ママ邪魔しちゃった?」
えま「(上ずった声で)な、何がッ?」
えま、部屋に戻って行く。
美香、ワクワクした顔で、
美香「ねぇ、あの2人どうしたの?」
と、足元のカーリーに話しかける。
カーリー、嬉しそうに廊下を走って行く。
美香、ふむふむと頷く。