【マンガシナリオ】私のイチバンボシ
第十三話 それぞれの生活
○宮本家・えまの部屋(朝)
えまの机の上の写真立てには草津で撮ったえまと陽斗の写真。
机上の日めくりカレンダーは1月になっている。
○陽斗のマンション・玄関~廊下(深夜)
陽斗、玄関で靴を脱ぎその場で壁にもたれて座り込む。
陽斗「あーーー今日長かったぁーーーー」
陽斗、スマホを見ると4:10の表示。
陽斗「ハハッ。コレもう朝じゃん」
と、伸びをする。
○同・廊下
インターホンの呼び出し音とスマホの着信音が鳴り続けている。
陽斗「んっ……」
陽斗、廊下の床の上で目を覚ます。
床に落ちているスマホに手を伸ばす。
佐藤からの着信画面。
陽斗、飛び起きて電話に出る。
陽斗「もしもしごめん今起きた! うん。10分で降りる。いや、5分!」
佐藤の声「陽斗さん待って、違うんです!」
陽斗、電話を切ってリビングにドタバタ走って行く。
○道路・車内
佐藤、陽斗を乗せて運転している。
佐藤「やっぱり1時間前に来ておいて正解でした」
陽斗「いやほんとマジで助かったー。さすが雄大」
佐藤「ちゃんと寝れましたか? また廊下で行き倒れたりしてないですよね? あれ初めて見つけた時超ビビったんですから」
陽斗「うん。今日も目が覚めたらバッチリ床だったね」
佐藤「あー! 家に帰ったらとにかくベッドに直行してくださいってあれほど言いましたよね⁉︎ 陽斗さんすぐ床で寝ちゃうから!」
陽斗「もう家入った瞬間安心して力抜けちゃうんだよ。ベッドまでたどり着かない」
佐藤「ダメですよ。そんなんじゃ疲れとれないし、むしろ疲れます」
陽斗「だよなぁ。引っ越しの片づけもまだ終わってないし、やることたくさんだー」
佐藤「今日の収録はゲストいないのでちょっと巻くかもしれないですね。あ、でも終わったらちょっと事務所で打ち合わせ入りました」
陽斗「了解~」
○えまの高校・教室
谷口、クラスに進路希望の紙を配る。
谷口「いいかー。来年の今頃は受験真っ只中だからな。泣いても笑ってもあと1年。やりきったって胸張って言える1年にしろよ! 頑張ればちゃんと結果はついてくるからな! まぁ、ついてこないこともあるけど!」
男子「谷セン萎えること言うなよー」
女子「せっかく途中までいいこと言ってたのに台無しぃ」
えま、ぼーっと前を見ている。
桃香「えーま!」
桃香がえまの席まで来て顔を覗き込む。
えま「ん?」
桃香「自販機行かない?」
えま「うん、行く」
えま、立ち上がって桃香と教室を出る。
○同・廊下
えまと桃香、話しながら歩く。
桃香「なんか心ここに在らずって感じだね」
えま「そうかな……?」
桃香「田中さん引っ越しちゃったんだっけ?」
えま「うん……1週間前に」
桃香「それは寂しいわ」
えま「いまだにね、陽斗くんがうちにいたこととか、全部私の妄想だったんじゃないかって思うんだよね。まぁ写真とかメッセージが残ってるから現実だって分かるんだけど」
桃香「そうだ。連絡先知ってるじゃん! 連絡とってないの?」
えま「とってない」
桃香「連絡すればいいじゃん! (猫撫で声で)『元気ですか~? 私は陽斗くんがいなくて毎日寂しいです。戻って来て?♡』って」
えま「ちょっと! バカにしてるでしょ。私そんな言い方しないからぁー」
えまと桃香、自販機の前に着く。
桃香「何にしよっかな~」
えま「え! つぶこが入ってる!」
えま、白ブドウのジュースを指さす。
桃香「これえまがよく飲んでるやつだよね」
えま「そう。美味しいよ!」
桃香「じゃあこれにしよっと。えまも飲む?」
えま「飲む!」
桃香、ボタンを2回押して缶が2本出てくる。
桃香「はい」
と、えまに渡す。
えま「ありがと。教室戻ったらお金渡すね」
桃香「いいよ。元気ないえまにプレゼント」
えま「桃香ぁ……ありがとう! 大好き!」
えま、桃香に抱きつく。
桃香「チョロいな~」
と、苦笑する。
桃香「そういえば、えまは進路決まった?」
えま「まだぁ」
桃香「どうすんの?」
えま「どうすればいいかな?」
桃香「私が決めていいの?」
えま「試しに。私ってどんな仕事が向いてる?」
桃香「(ニヤニヤしながら)お嫁さん。田中さんに永久就職」
えま「もう! 真面目にぃ~」
えまと桃香、じゃれ合いながら廊下を歩く。
○事務所・廊下(夜)
陽斗と佐藤、会議室を出て廊下を歩いている。
奥から宮本と秘書が歩いてくる。
宮本、陽斗に気が付く。
宮本「おい陽斗ぉぉ!」
宮本、大股で陽斗たちの方へ向かってくる。
佐藤「なんか社長怒ってません?」
陽斗「嫌な予感しかしない……」
陽斗、くるりと背を向けて来た道を戻ろうとする。
宮本「おい! コラ待て陽斗! 佐藤、陽斗捕まえとけ!」
佐藤「うぇ⁉︎ あ、はい!」
佐藤、陽斗の手を掴んで引き止める。
陽斗「俺の味方じゃないのかよ!」
佐藤「あ、すいません。なんか反射的に……」
と、手を離す。
宮本、陽斗たちの元に着く。
宮本「なんで逃げようとしたんだ? ん?」
陽斗「……そんな鬼の形相で近づいてこられたら誰だって逃げたくなりますよ」
宮本「逃げるってことは、何かやましいことがあるからだろぉ? 俺に言ってないこと、あるんじゃないか? なぁ陽斗?」
陽斗「……この間、えまちゃんとドライブに行かせてイタダキマシタ」
と、ボソボソ呟く。
佐藤「えぇっ⁉︎ そうなんですか⁉︎」
宮本「行きましたってなんだ! 事後報告じゃねーか! 事前に報告、連絡、相談! 社会人の基本だ! なぁ佐藤」
佐藤「はい! 報連相大事です!」
陽斗、佐藤を睨む。
佐藤、クスクス笑う。
陽斗「……すいません」
宮本「全く。油断も隙もないな。だいたいお前はな、」
秘書「社長。車が待ってます」
秘書が話に割って入る。
宮本、仕方ないなという顔。
宮本「陽斗」
陽斗「(気まずそうに)……はい」
宮本「たまには遊びに来いよ。……えまが寂しがってるって」
陽斗、目を丸くする。
陽斗「あっ……はい! 行きます! むしろいんですか?」
宮本「ただし、俺もいる時だけだぞ! いいな! 2人きりなんてまだ早い!」
秘書「ほら行きますよ」
秘書、喋り続けようとする宮本の背中を押していく。
陽斗、宮本の後ろ姿を見て口角を上げる。
佐藤、ニヤニヤしながら
佐藤「ちょっと陽斗さぁん? 俺その話聞いてないですよ! 詳しく!」
陽斗「……特に話すことナーシ!」
陽斗、上機嫌で歩き出す。
佐藤「あ、待ってください!」
佐藤、陽斗を追いかける。
○陽斗のマンション・リビングダイニング(夜)
陽斗、段ボールを畳む。
ウッド調に暖色系で統一された部屋。
家具や配置も前と変わらない。
陽斗、キッチンでコーヒーを淹れる。
○同・ベランダ(夜)
陽斗、マグカップを持ってベランダに出る。
キャンプ用の椅子が置いてある。
陽斗「うわ寒っ!」
陽斗、椅子に座ってコーヒーを飲みながらえまとのメッセージ画面を開く。
陽斗「……寂しいなら連絡してくればいいじゃん」
陽斗、口をへの字にする。
○宮本家・リビングダイニング(夜)
えま、コップを持ってベランダの窓を開ける。
美香「どこ行くの?」
えま「ちょっと気分転換~」
美香「そんな薄着じゃ風邪引くから上着着なさいね」
えま「うん大丈夫―」
○同・ベランダ(夜)
えま、ベランダに出る。
えま「寒ぅ~」
えま、コップで温まりながら陽斗とのメッセージ画面を開く。
えま、〈お疲れ様です! 映画の予告みました。絶対初日に行きます!〉と打ち込む。
えま「なんか馴れ馴れしすぎかな……?」
えま、送信を押そうとして手が止まる。
○陽斗のマンション・ベランダ(夜)
陽斗、椅子に座ってスマホを見つめる。
陽斗「せっかく慣れたのに、離れた途端なんか急に……」
陽斗、〈元気?〉と送ろうとして文字を消す。
陽斗「あ゛ーー! なんか緊張する!」
○宮本家・ベランダ(夜)
えま、手すり壁にもたれてスマホを見ながら空に掲げる。
えま「なんか緊張する!!」
えま、送信を押そうとすると大和から着信通知。
えま「(ウソ、大くん⁉︎)」
えま「もしもし」
大和の声「えまちゃん久しぶり! いま大丈夫?」
えま「お久しぶりです! はい大丈夫です!」
大和の声「俺ら3月にドームでコンサートやるんだけどさ」
えま「はい! 情報解禁されてたの見ました!」
大和の声「えまちゃんの席とっとくから良かったら来てよっていうお誘い!」
えま「いいんですか⁉︎ ぜひ行かせてください!」
えま、即答する。
大和の声「良かった。断られるかと思った」
えま「大和くんのお誘いを断るわけないです!」
大和の声「(笑いながら)でも俺のこと忘れてたよね」
えま「あー! そのことはもう言わない約束じゃないですか~」
大和の声「アハハ。そうだった」
えま、頬が緩む。
○陽斗のマンション・ベランダ(夜)
陽斗、えまの番号に発信してスマホを耳に当てる。
ツーツー音がする。
陽斗「話中か」
と、耳から離したスマホを見つめる。
翼から着信通知。
陽斗「もしもし」
翼の声「もしもし? 今どこ?」
陽斗「もう家だよ」
翼の声「だよな。共有スケジュールに今日『番組収録』しか書いてなかったからそうだと思った」
陽斗「そう。意外と巻けたからわりと早く帰れた。で、どうした?」
翼の声「まだ新年会してなかったじゃん? 陽斗の新居も行きたいし、お前んちであけおめパーティーとかどう? いいよな? 鍋しよ! 材料はみんなで持って行くからよろしく」
陽斗、「ふはっ」っと吹き出す。
陽斗「俺まだいいって言ってないんだけど。まぁ別にいいけど」
翼の声「俺らが行く方が荷ほどきも進むっしょ? どうせまだ終わってないだろうし」
陽斗、部屋の中を見る。
空いてない段ボール箱が残っている。
陽斗「余計なお世話だっつーの」
翼の声「じゃ、そういうことで! みんなには連絡しとくー」
陽斗「ん」
翼の声「じゃ、おやすみー。ちゃんとベッドで寝ろよー」
陽斗「はいはい。おやすみ」
と、通話を切る。
翼からメッセージ通知が来る
〈翼:陽斗の新居であけおめ鍋するよ~〉
ユニクラのメンバーが次々とスタンプを送って来る。
〈凛太郎:俺人生ゲーム持って行くね!〉
陽斗「みんな返信早すぎだろ」
と、笑う。
○同・リビングダイニング(夜)
テーブルの上には鍋とつまみとお酒が並ぶ。
翼「それでは皆さん新年あけおめ! 陽斗の新居万歳、カンパーイ!」
一同「カンパーイ!」
陽斗と悠真と柊也、失笑しながら乾杯してコップに入ったビールを飲む。
柊也「乾杯の音頭独特すぎだろ」
陽斗「それな」
凛太郎「それにしてもはるピーいい部屋だね! 前の部屋にすごく似てる」
凛太郎、立ち上がって部屋の中を歩いて回る。
陽斗「そう。前の家気に入ってたから大樹にお願いして似てる物件探してもらった」
悠真「窓からの景色も最高だね」
悠真と柊也、コップを持って窓の傍に行く。
眼下には都会の夜景が広がる。
翼「ベランダも広くね?」
陽斗「今はちょっと寒いけど、あったかいコーヒー飲みながらよくボーっとしてる」
翼「なんだよそれ超いいじゃん!」
× × ×
5人、カーペットに座って人生ゲームをする。
翼「ところでみんな、最近どうよ」
悠真「いや、その聞き方がどうよ」
翼「俺はもう姪っ子に貢ぎまくり。ほら、ヤバ可愛くね?」
と、スマホで赤ちゃんの写真を見せる。
柊也「うわ、超かわいい」
陽斗「お兄ちゃんの子供だっけ?」
翼「そう。もうまーじ可愛い。おもちゃ買いすぎてお義姉さんに怒られてる」
凛太郎「俺はね、最近ジム行き始めた!」
悠真「お前なんでツアー終わってから鍛え始めてんだよ」
一同、笑う。
凛太郎「それがさ。SNSでエゴサしてたら『凛くん意外と腹筋割れてなくいのカワイイ』とか結構書いてあってさ。さすがにスイッチ入った」
柊也「まぁ、次に向けてってことで」
悠真「俺は車買った」
陽斗「マジ? 何買ったの?」
悠真「これ」
と、スマホで写真を見せる。
有名な高級外車。
翼「えーヤバ!」
柊也「(笑いながら)ちょっと待って。悠真ってペーパーじゃなかったっけ?」
悠真「うん、ペーパー。車買っちゃえば練習するようになるかなって」
悠真、くしゃっと笑う。
凛太郎「形から入るにもほどがあるでしょ」
柊也「なんか悠真が桁違い過ぎて俺のすごい普通なんだけど」
陽斗「何買ったの?」
柊也「結構いいスピーカーとプロジェクタ―」
凛太郎「あ! 映画館みたいにできるやつでしょ?」
柊也「そうそう」
凛太郎「行きたい!」
柊也「じゃあ次はうちで映画観賞会ということで」
凛太郎「一体いつになることやら」
悠真「全員スケジュール合う奇跡的な日なんてそうそうないからね」
翼「ちょいちょい! なんかみんな買った物紹介になっちゃってんのよ」
柊也「だってお前が最初に姪っ子に貢いでる話始めたからじゃん」
翼「いや、いいんだよ? いいんだけどさ、俺はもっとこう『最近共演したあの人が可愛かった』とかそういうやつが聞きたかったのよ」
凛太郎、ニヤニヤしながら陽斗を見る。
凛太郎「でもさ、やっぱ今そういうトークあるのははるピーなんじゃないのぉ?」
悠真「そうじゃん。俺らまだ報告聞いてないよ」
陽斗「なんだよ報告って」
陽斗、少し顔が赤くなっている。
悠真「えまちゃんと出かけた話」
翼「俺らちゃんとデートの案出したんだから、やっぱ聞く権利あるっしょ」
陽斗「……いや、普通に楽しかったよ? 草津まで行って、色々食べて、足湯入って」
柊也「写真とかないの?」
陽斗「まぁ、あるけど……」
翼「み♡せ♡ろ?」
翼、手のひらを出す。
陽斗、渋々カメラロールを開いてスマホを翼に渡す。
メンバーが集まる。
カメラロールには陽斗とえまの写真。
悠真「うっわ何これ! 超楽しんでんじゃん!」
凛「えまちゃんって私服こんなボーイッシュなの⁉︎ 可愛い」
陽斗「いや、それはなんか万が一のために男装してくれて」
翼「やば、超いい子じゃん。結婚したい」
と、ふざける。
柊也、ニヤけながら翼の頭を叩く。
全員で2人が鮎の串を食べている動画を見る。
悠真「そしてはるピーの食リポが絶妙に下手なのがまたいいね」
凛太郎「やばい、このお互い撮りあうのキュンキュンすんだけど~」
陽斗「はいはいもう終わり!」
陽斗、照れ臭そうに翼からスマホを奪う。
翼「実際さ、えまちゃんってこの数か月間どういう心境だったんだろ。だって陽斗は推しなわけじゃん? 推しと一緒に住むって普通に考えてヤバくね? よく落ち着いてられるよな」
悠真「それは俺も思う。だってはるピーがしばらく社長の家に住むことになって、しかも娘さんがはるピーのファンって聞いた時、申し訳ないけど俺絶対はるピーの盗撮とかネットにアップされるんじゃないかって心配してたもん」
柊也「確かに正直そういう心配もあったよな」
凛太郎「でも実際えまちゃんに会って、そういうことするような子じゃないっていうのはすぐ分かったけどね」
陽斗「そういうのはマジでなかった。前も言ったかもしれないけど、家にいる俺はユニクラウンの田中陽斗とは思われてなかったから。本当にただの『人』って認識だったんだと思う。でも今思えば、俺のことを考えて、頑張ってそういう風に自分に言い聞かせてくれてたんだろうな」
陽斗、愛おしそうに話す。
柊也「俺は陽斗とえまちゃんすごくいいと思うんだよね。俺らの仕事に理解あるし、下手すると同じ芸能の人よりもよっぽどしっかりしてるよ。10代とは思えない」
陽斗「……いや、別にそんなんじゃないって」
翼「お前、俺らに誤魔化せると思う? 一体何年一緒にいると思ってんだよ」
悠真「そうそう」
凛太郎「はるピーはえまちゃんのこと好きなんでしょ?」
悠真「出た、凛のドストレート攻撃」
陽斗「……ノーコメントで」
と、顔を逸らす。
翼「それはもう答え言ってんのと同じだけどな」
陽斗「……もし、もし言うなら、まずは本人に伝えたいから。もし言うならね」
陽斗、ルーレットを回す。
悠真「いやぁ、漢だね」
凛太郎「カッコいい!」
柊也「じゃあ俺らはあたたかく見守るとしますか」
ルーレットが4で止まる。
陽斗、自分の車を4マス進める。
陽斗「あ、子供生まれた。みんな20ドルちょうだい」
翼「またぁ⁉︎ お前だけなんか俺らから金取りすぎじゃね⁉︎」
凛太郎「翼くんはさっきの株の大暴落が痛かったね」
凛太郎、陽斗に20ドル渡す。
柊也「翼、20ドル貸しにしとこうか?」
凛太郎「助かる~マジ神!」
柊也、陽斗に40ドル渡す。
陽斗「みんなサンキュー!」
悠真「次誰?」
凛太郎「翼くんじゃない?」
翼「あ、俺か」
と、ルーレットを回す。
○同・玄関(深夜)
陽斗、4人を見送る。
翼「お邪魔しましたー!」
凛太郎「ばいばーい」
柊也「陽斗ありがとな」
悠真「はるピーまた明日! てかもう今日か」
陽斗「うん。気を付けて!」
陽斗、ドアを閉める。
○同・エントランスホール(深夜)
4人、エレベーターを降りてエントランスに向かう。
翼「意外と飲み過ぎた」
悠真「俺明日起きれるか不安になってきた」
凛太郎「モニコしようか?」
悠真「凛は普通に『ごめん寝てたー』とか言ってきそうだからやめとく」
凛太郎「それひどくない⁉︎」
柊也「お前らもうちょっと声落とせって」
外から帽子を被った男女のカップルが入って来て4人とすれ違う。
悠真、立ち止まって振り返る。
カップルはエレベーターに乗り込む。
柊也、悠真を振り返って、
柊也「悠真どうかした?」
悠真、小走りで柊也たちの方へ行く。
悠真「いや。今すれ違ったの山口さんだった気がする……」
柊也「え、マジ? ここに住んでんのかな」
悠真「それか隣にいた男の家とか?」
翼「気のせいじゃん?」
悠真「……そうだよな!」
4人、エントランス前のタクシーに乗り込む。
○美玲の家・リビング(深夜)
美玲と恋人、お揃いの部屋着を着てソファに座りテレビを見てる。
恋人「なんのドラマ?」
美玲「年の差恋愛の話。すごい人気なんだよ? もう終わったけど」
恋人「へぇ~」
と、自分の手を美玲の手に絡める。
美玲、恋人がつけているリングが目に入る。
美玲「これ……」
美玲、恋人の手をとってリングを触る。
恋人「あーそう。前に美玲がネットで検索してたの見てたら欲しくなって買った」
美玲「いいね似合ってる! 私もはめていい?」
恋人「いいけど大きいよ」
美玲、リングを自分の左手の薬指にはめる。
美玲「ほんとだ。ぶかぶか」
恋人「だろ?」
美玲、スマホを取り出してリングをはめた自分の手を撮影する。
写真にはテレビ画面と美玲の部屋着のパーカーと恋人の部屋着のズボンが見切れて写っている。
恋人、立ち上がって美玲の手を引く。
恋人「そろそろ寝よ。もう遅いよ」
美玲「すぐ行くから先行ってて」
恋人、手を離して寝室へ向かう。
美玲、スマホで何かをする。
満足な顔をして立ち上がり、テレビを消してリビングの電気を消す。
えまの机の上の写真立てには草津で撮ったえまと陽斗の写真。
机上の日めくりカレンダーは1月になっている。
○陽斗のマンション・玄関~廊下(深夜)
陽斗、玄関で靴を脱ぎその場で壁にもたれて座り込む。
陽斗「あーーー今日長かったぁーーーー」
陽斗、スマホを見ると4:10の表示。
陽斗「ハハッ。コレもう朝じゃん」
と、伸びをする。
○同・廊下
インターホンの呼び出し音とスマホの着信音が鳴り続けている。
陽斗「んっ……」
陽斗、廊下の床の上で目を覚ます。
床に落ちているスマホに手を伸ばす。
佐藤からの着信画面。
陽斗、飛び起きて電話に出る。
陽斗「もしもしごめん今起きた! うん。10分で降りる。いや、5分!」
佐藤の声「陽斗さん待って、違うんです!」
陽斗、電話を切ってリビングにドタバタ走って行く。
○道路・車内
佐藤、陽斗を乗せて運転している。
佐藤「やっぱり1時間前に来ておいて正解でした」
陽斗「いやほんとマジで助かったー。さすが雄大」
佐藤「ちゃんと寝れましたか? また廊下で行き倒れたりしてないですよね? あれ初めて見つけた時超ビビったんですから」
陽斗「うん。今日も目が覚めたらバッチリ床だったね」
佐藤「あー! 家に帰ったらとにかくベッドに直行してくださいってあれほど言いましたよね⁉︎ 陽斗さんすぐ床で寝ちゃうから!」
陽斗「もう家入った瞬間安心して力抜けちゃうんだよ。ベッドまでたどり着かない」
佐藤「ダメですよ。そんなんじゃ疲れとれないし、むしろ疲れます」
陽斗「だよなぁ。引っ越しの片づけもまだ終わってないし、やることたくさんだー」
佐藤「今日の収録はゲストいないのでちょっと巻くかもしれないですね。あ、でも終わったらちょっと事務所で打ち合わせ入りました」
陽斗「了解~」
○えまの高校・教室
谷口、クラスに進路希望の紙を配る。
谷口「いいかー。来年の今頃は受験真っ只中だからな。泣いても笑ってもあと1年。やりきったって胸張って言える1年にしろよ! 頑張ればちゃんと結果はついてくるからな! まぁ、ついてこないこともあるけど!」
男子「谷セン萎えること言うなよー」
女子「せっかく途中までいいこと言ってたのに台無しぃ」
えま、ぼーっと前を見ている。
桃香「えーま!」
桃香がえまの席まで来て顔を覗き込む。
えま「ん?」
桃香「自販機行かない?」
えま「うん、行く」
えま、立ち上がって桃香と教室を出る。
○同・廊下
えまと桃香、話しながら歩く。
桃香「なんか心ここに在らずって感じだね」
えま「そうかな……?」
桃香「田中さん引っ越しちゃったんだっけ?」
えま「うん……1週間前に」
桃香「それは寂しいわ」
えま「いまだにね、陽斗くんがうちにいたこととか、全部私の妄想だったんじゃないかって思うんだよね。まぁ写真とかメッセージが残ってるから現実だって分かるんだけど」
桃香「そうだ。連絡先知ってるじゃん! 連絡とってないの?」
えま「とってない」
桃香「連絡すればいいじゃん! (猫撫で声で)『元気ですか~? 私は陽斗くんがいなくて毎日寂しいです。戻って来て?♡』って」
えま「ちょっと! バカにしてるでしょ。私そんな言い方しないからぁー」
えまと桃香、自販機の前に着く。
桃香「何にしよっかな~」
えま「え! つぶこが入ってる!」
えま、白ブドウのジュースを指さす。
桃香「これえまがよく飲んでるやつだよね」
えま「そう。美味しいよ!」
桃香「じゃあこれにしよっと。えまも飲む?」
えま「飲む!」
桃香、ボタンを2回押して缶が2本出てくる。
桃香「はい」
と、えまに渡す。
えま「ありがと。教室戻ったらお金渡すね」
桃香「いいよ。元気ないえまにプレゼント」
えま「桃香ぁ……ありがとう! 大好き!」
えま、桃香に抱きつく。
桃香「チョロいな~」
と、苦笑する。
桃香「そういえば、えまは進路決まった?」
えま「まだぁ」
桃香「どうすんの?」
えま「どうすればいいかな?」
桃香「私が決めていいの?」
えま「試しに。私ってどんな仕事が向いてる?」
桃香「(ニヤニヤしながら)お嫁さん。田中さんに永久就職」
えま「もう! 真面目にぃ~」
えまと桃香、じゃれ合いながら廊下を歩く。
○事務所・廊下(夜)
陽斗と佐藤、会議室を出て廊下を歩いている。
奥から宮本と秘書が歩いてくる。
宮本、陽斗に気が付く。
宮本「おい陽斗ぉぉ!」
宮本、大股で陽斗たちの方へ向かってくる。
佐藤「なんか社長怒ってません?」
陽斗「嫌な予感しかしない……」
陽斗、くるりと背を向けて来た道を戻ろうとする。
宮本「おい! コラ待て陽斗! 佐藤、陽斗捕まえとけ!」
佐藤「うぇ⁉︎ あ、はい!」
佐藤、陽斗の手を掴んで引き止める。
陽斗「俺の味方じゃないのかよ!」
佐藤「あ、すいません。なんか反射的に……」
と、手を離す。
宮本、陽斗たちの元に着く。
宮本「なんで逃げようとしたんだ? ん?」
陽斗「……そんな鬼の形相で近づいてこられたら誰だって逃げたくなりますよ」
宮本「逃げるってことは、何かやましいことがあるからだろぉ? 俺に言ってないこと、あるんじゃないか? なぁ陽斗?」
陽斗「……この間、えまちゃんとドライブに行かせてイタダキマシタ」
と、ボソボソ呟く。
佐藤「えぇっ⁉︎ そうなんですか⁉︎」
宮本「行きましたってなんだ! 事後報告じゃねーか! 事前に報告、連絡、相談! 社会人の基本だ! なぁ佐藤」
佐藤「はい! 報連相大事です!」
陽斗、佐藤を睨む。
佐藤、クスクス笑う。
陽斗「……すいません」
宮本「全く。油断も隙もないな。だいたいお前はな、」
秘書「社長。車が待ってます」
秘書が話に割って入る。
宮本、仕方ないなという顔。
宮本「陽斗」
陽斗「(気まずそうに)……はい」
宮本「たまには遊びに来いよ。……えまが寂しがってるって」
陽斗、目を丸くする。
陽斗「あっ……はい! 行きます! むしろいんですか?」
宮本「ただし、俺もいる時だけだぞ! いいな! 2人きりなんてまだ早い!」
秘書「ほら行きますよ」
秘書、喋り続けようとする宮本の背中を押していく。
陽斗、宮本の後ろ姿を見て口角を上げる。
佐藤、ニヤニヤしながら
佐藤「ちょっと陽斗さぁん? 俺その話聞いてないですよ! 詳しく!」
陽斗「……特に話すことナーシ!」
陽斗、上機嫌で歩き出す。
佐藤「あ、待ってください!」
佐藤、陽斗を追いかける。
○陽斗のマンション・リビングダイニング(夜)
陽斗、段ボールを畳む。
ウッド調に暖色系で統一された部屋。
家具や配置も前と変わらない。
陽斗、キッチンでコーヒーを淹れる。
○同・ベランダ(夜)
陽斗、マグカップを持ってベランダに出る。
キャンプ用の椅子が置いてある。
陽斗「うわ寒っ!」
陽斗、椅子に座ってコーヒーを飲みながらえまとのメッセージ画面を開く。
陽斗「……寂しいなら連絡してくればいいじゃん」
陽斗、口をへの字にする。
○宮本家・リビングダイニング(夜)
えま、コップを持ってベランダの窓を開ける。
美香「どこ行くの?」
えま「ちょっと気分転換~」
美香「そんな薄着じゃ風邪引くから上着着なさいね」
えま「うん大丈夫―」
○同・ベランダ(夜)
えま、ベランダに出る。
えま「寒ぅ~」
えま、コップで温まりながら陽斗とのメッセージ画面を開く。
えま、〈お疲れ様です! 映画の予告みました。絶対初日に行きます!〉と打ち込む。
えま「なんか馴れ馴れしすぎかな……?」
えま、送信を押そうとして手が止まる。
○陽斗のマンション・ベランダ(夜)
陽斗、椅子に座ってスマホを見つめる。
陽斗「せっかく慣れたのに、離れた途端なんか急に……」
陽斗、〈元気?〉と送ろうとして文字を消す。
陽斗「あ゛ーー! なんか緊張する!」
○宮本家・ベランダ(夜)
えま、手すり壁にもたれてスマホを見ながら空に掲げる。
えま「なんか緊張する!!」
えま、送信を押そうとすると大和から着信通知。
えま「(ウソ、大くん⁉︎)」
えま「もしもし」
大和の声「えまちゃん久しぶり! いま大丈夫?」
えま「お久しぶりです! はい大丈夫です!」
大和の声「俺ら3月にドームでコンサートやるんだけどさ」
えま「はい! 情報解禁されてたの見ました!」
大和の声「えまちゃんの席とっとくから良かったら来てよっていうお誘い!」
えま「いいんですか⁉︎ ぜひ行かせてください!」
えま、即答する。
大和の声「良かった。断られるかと思った」
えま「大和くんのお誘いを断るわけないです!」
大和の声「(笑いながら)でも俺のこと忘れてたよね」
えま「あー! そのことはもう言わない約束じゃないですか~」
大和の声「アハハ。そうだった」
えま、頬が緩む。
○陽斗のマンション・ベランダ(夜)
陽斗、えまの番号に発信してスマホを耳に当てる。
ツーツー音がする。
陽斗「話中か」
と、耳から離したスマホを見つめる。
翼から着信通知。
陽斗「もしもし」
翼の声「もしもし? 今どこ?」
陽斗「もう家だよ」
翼の声「だよな。共有スケジュールに今日『番組収録』しか書いてなかったからそうだと思った」
陽斗「そう。意外と巻けたからわりと早く帰れた。で、どうした?」
翼の声「まだ新年会してなかったじゃん? 陽斗の新居も行きたいし、お前んちであけおめパーティーとかどう? いいよな? 鍋しよ! 材料はみんなで持って行くからよろしく」
陽斗、「ふはっ」っと吹き出す。
陽斗「俺まだいいって言ってないんだけど。まぁ別にいいけど」
翼の声「俺らが行く方が荷ほどきも進むっしょ? どうせまだ終わってないだろうし」
陽斗、部屋の中を見る。
空いてない段ボール箱が残っている。
陽斗「余計なお世話だっつーの」
翼の声「じゃ、そういうことで! みんなには連絡しとくー」
陽斗「ん」
翼の声「じゃ、おやすみー。ちゃんとベッドで寝ろよー」
陽斗「はいはい。おやすみ」
と、通話を切る。
翼からメッセージ通知が来る
〈翼:陽斗の新居であけおめ鍋するよ~〉
ユニクラのメンバーが次々とスタンプを送って来る。
〈凛太郎:俺人生ゲーム持って行くね!〉
陽斗「みんな返信早すぎだろ」
と、笑う。
○同・リビングダイニング(夜)
テーブルの上には鍋とつまみとお酒が並ぶ。
翼「それでは皆さん新年あけおめ! 陽斗の新居万歳、カンパーイ!」
一同「カンパーイ!」
陽斗と悠真と柊也、失笑しながら乾杯してコップに入ったビールを飲む。
柊也「乾杯の音頭独特すぎだろ」
陽斗「それな」
凛太郎「それにしてもはるピーいい部屋だね! 前の部屋にすごく似てる」
凛太郎、立ち上がって部屋の中を歩いて回る。
陽斗「そう。前の家気に入ってたから大樹にお願いして似てる物件探してもらった」
悠真「窓からの景色も最高だね」
悠真と柊也、コップを持って窓の傍に行く。
眼下には都会の夜景が広がる。
翼「ベランダも広くね?」
陽斗「今はちょっと寒いけど、あったかいコーヒー飲みながらよくボーっとしてる」
翼「なんだよそれ超いいじゃん!」
× × ×
5人、カーペットに座って人生ゲームをする。
翼「ところでみんな、最近どうよ」
悠真「いや、その聞き方がどうよ」
翼「俺はもう姪っ子に貢ぎまくり。ほら、ヤバ可愛くね?」
と、スマホで赤ちゃんの写真を見せる。
柊也「うわ、超かわいい」
陽斗「お兄ちゃんの子供だっけ?」
翼「そう。もうまーじ可愛い。おもちゃ買いすぎてお義姉さんに怒られてる」
凛太郎「俺はね、最近ジム行き始めた!」
悠真「お前なんでツアー終わってから鍛え始めてんだよ」
一同、笑う。
凛太郎「それがさ。SNSでエゴサしてたら『凛くん意外と腹筋割れてなくいのカワイイ』とか結構書いてあってさ。さすがにスイッチ入った」
柊也「まぁ、次に向けてってことで」
悠真「俺は車買った」
陽斗「マジ? 何買ったの?」
悠真「これ」
と、スマホで写真を見せる。
有名な高級外車。
翼「えーヤバ!」
柊也「(笑いながら)ちょっと待って。悠真ってペーパーじゃなかったっけ?」
悠真「うん、ペーパー。車買っちゃえば練習するようになるかなって」
悠真、くしゃっと笑う。
凛太郎「形から入るにもほどがあるでしょ」
柊也「なんか悠真が桁違い過ぎて俺のすごい普通なんだけど」
陽斗「何買ったの?」
柊也「結構いいスピーカーとプロジェクタ―」
凛太郎「あ! 映画館みたいにできるやつでしょ?」
柊也「そうそう」
凛太郎「行きたい!」
柊也「じゃあ次はうちで映画観賞会ということで」
凛太郎「一体いつになることやら」
悠真「全員スケジュール合う奇跡的な日なんてそうそうないからね」
翼「ちょいちょい! なんかみんな買った物紹介になっちゃってんのよ」
柊也「だってお前が最初に姪っ子に貢いでる話始めたからじゃん」
翼「いや、いいんだよ? いいんだけどさ、俺はもっとこう『最近共演したあの人が可愛かった』とかそういうやつが聞きたかったのよ」
凛太郎、ニヤニヤしながら陽斗を見る。
凛太郎「でもさ、やっぱ今そういうトークあるのははるピーなんじゃないのぉ?」
悠真「そうじゃん。俺らまだ報告聞いてないよ」
陽斗「なんだよ報告って」
陽斗、少し顔が赤くなっている。
悠真「えまちゃんと出かけた話」
翼「俺らちゃんとデートの案出したんだから、やっぱ聞く権利あるっしょ」
陽斗「……いや、普通に楽しかったよ? 草津まで行って、色々食べて、足湯入って」
柊也「写真とかないの?」
陽斗「まぁ、あるけど……」
翼「み♡せ♡ろ?」
翼、手のひらを出す。
陽斗、渋々カメラロールを開いてスマホを翼に渡す。
メンバーが集まる。
カメラロールには陽斗とえまの写真。
悠真「うっわ何これ! 超楽しんでんじゃん!」
凛「えまちゃんって私服こんなボーイッシュなの⁉︎ 可愛い」
陽斗「いや、それはなんか万が一のために男装してくれて」
翼「やば、超いい子じゃん。結婚したい」
と、ふざける。
柊也、ニヤけながら翼の頭を叩く。
全員で2人が鮎の串を食べている動画を見る。
悠真「そしてはるピーの食リポが絶妙に下手なのがまたいいね」
凛太郎「やばい、このお互い撮りあうのキュンキュンすんだけど~」
陽斗「はいはいもう終わり!」
陽斗、照れ臭そうに翼からスマホを奪う。
翼「実際さ、えまちゃんってこの数か月間どういう心境だったんだろ。だって陽斗は推しなわけじゃん? 推しと一緒に住むって普通に考えてヤバくね? よく落ち着いてられるよな」
悠真「それは俺も思う。だってはるピーがしばらく社長の家に住むことになって、しかも娘さんがはるピーのファンって聞いた時、申し訳ないけど俺絶対はるピーの盗撮とかネットにアップされるんじゃないかって心配してたもん」
柊也「確かに正直そういう心配もあったよな」
凛太郎「でも実際えまちゃんに会って、そういうことするような子じゃないっていうのはすぐ分かったけどね」
陽斗「そういうのはマジでなかった。前も言ったかもしれないけど、家にいる俺はユニクラウンの田中陽斗とは思われてなかったから。本当にただの『人』って認識だったんだと思う。でも今思えば、俺のことを考えて、頑張ってそういう風に自分に言い聞かせてくれてたんだろうな」
陽斗、愛おしそうに話す。
柊也「俺は陽斗とえまちゃんすごくいいと思うんだよね。俺らの仕事に理解あるし、下手すると同じ芸能の人よりもよっぽどしっかりしてるよ。10代とは思えない」
陽斗「……いや、別にそんなんじゃないって」
翼「お前、俺らに誤魔化せると思う? 一体何年一緒にいると思ってんだよ」
悠真「そうそう」
凛太郎「はるピーはえまちゃんのこと好きなんでしょ?」
悠真「出た、凛のドストレート攻撃」
陽斗「……ノーコメントで」
と、顔を逸らす。
翼「それはもう答え言ってんのと同じだけどな」
陽斗「……もし、もし言うなら、まずは本人に伝えたいから。もし言うならね」
陽斗、ルーレットを回す。
悠真「いやぁ、漢だね」
凛太郎「カッコいい!」
柊也「じゃあ俺らはあたたかく見守るとしますか」
ルーレットが4で止まる。
陽斗、自分の車を4マス進める。
陽斗「あ、子供生まれた。みんな20ドルちょうだい」
翼「またぁ⁉︎ お前だけなんか俺らから金取りすぎじゃね⁉︎」
凛太郎「翼くんはさっきの株の大暴落が痛かったね」
凛太郎、陽斗に20ドル渡す。
柊也「翼、20ドル貸しにしとこうか?」
凛太郎「助かる~マジ神!」
柊也、陽斗に40ドル渡す。
陽斗「みんなサンキュー!」
悠真「次誰?」
凛太郎「翼くんじゃない?」
翼「あ、俺か」
と、ルーレットを回す。
○同・玄関(深夜)
陽斗、4人を見送る。
翼「お邪魔しましたー!」
凛太郎「ばいばーい」
柊也「陽斗ありがとな」
悠真「はるピーまた明日! てかもう今日か」
陽斗「うん。気を付けて!」
陽斗、ドアを閉める。
○同・エントランスホール(深夜)
4人、エレベーターを降りてエントランスに向かう。
翼「意外と飲み過ぎた」
悠真「俺明日起きれるか不安になってきた」
凛太郎「モニコしようか?」
悠真「凛は普通に『ごめん寝てたー』とか言ってきそうだからやめとく」
凛太郎「それひどくない⁉︎」
柊也「お前らもうちょっと声落とせって」
外から帽子を被った男女のカップルが入って来て4人とすれ違う。
悠真、立ち止まって振り返る。
カップルはエレベーターに乗り込む。
柊也、悠真を振り返って、
柊也「悠真どうかした?」
悠真、小走りで柊也たちの方へ行く。
悠真「いや。今すれ違ったの山口さんだった気がする……」
柊也「え、マジ? ここに住んでんのかな」
悠真「それか隣にいた男の家とか?」
翼「気のせいじゃん?」
悠真「……そうだよな!」
4人、エントランス前のタクシーに乗り込む。
○美玲の家・リビング(深夜)
美玲と恋人、お揃いの部屋着を着てソファに座りテレビを見てる。
恋人「なんのドラマ?」
美玲「年の差恋愛の話。すごい人気なんだよ? もう終わったけど」
恋人「へぇ~」
と、自分の手を美玲の手に絡める。
美玲、恋人がつけているリングが目に入る。
美玲「これ……」
美玲、恋人の手をとってリングを触る。
恋人「あーそう。前に美玲がネットで検索してたの見てたら欲しくなって買った」
美玲「いいね似合ってる! 私もはめていい?」
恋人「いいけど大きいよ」
美玲、リングを自分の左手の薬指にはめる。
美玲「ほんとだ。ぶかぶか」
恋人「だろ?」
美玲、スマホを取り出してリングをはめた自分の手を撮影する。
写真にはテレビ画面と美玲の部屋着のパーカーと恋人の部屋着のズボンが見切れて写っている。
恋人、立ち上がって美玲の手を引く。
恋人「そろそろ寝よ。もう遅いよ」
美玲「すぐ行くから先行ってて」
恋人、手を離して寝室へ向かう。
美玲、スマホで何かをする。
満足な顔をして立ち上がり、テレビを消してリビングの電気を消す。