【マンガシナリオ】私のイチバンボシ
第七話 推しと文化祭
◯宮本家・リビングダイニング(朝)
家族と陽斗が朝ごはんを食べている。
美香「そういえば、今年はえまたちのクラスは文化祭何するの?」
えま「……縁日」
宮本「おぉ! パパも遊びに行こうかなぁ」
宮本、えまの様子を伺いながら聞く。
えま「……派手な格好は絶対やめてね」
宮本「えっ……?」
と、美香を見る。
美香、にっこり微笑む。
宮本「(涙目で)分かった! 保護者の中で一番地味な格好にするからな! 安心しろ!」
類「俺も行こうかな~」
えま「お兄ちゃんは絶対余計なことべらべら喋るからイヤ」
類「そんなぁ! それは父さんだって変わんないだろ!」
宮本「いや、父さんは類と違ってやる時はやれる男だからな」
類「いーや。蛙の子は蛙なんだから、蛙の親も蛙だよ」
えま、呆れながら朝ごはんを食べる。
陽斗と美香、顔を見合わせて頷く。
○高校・校門
文化祭の立て看板。
保護者や他校の生徒が続々と門の中に入って行く。
○同・教室前
教室外の壁に大きく【縁日】と書かれている。
桃香「縁日いかがですか~」
桃香、法被を着て呼び込み。
宮本、美香、類が教室の前に来る。
美香「桃香ちゃーん」
桃香「えまのお母さん!」
美香「えま中にいる?」
桃香「いますよ! 今呼んできますね!」
美香「お仕事中にごめんね」
桃香、「えまー」と扉口から教室の中に向かって叫ぶ。
えま「ママたち早くない?」
と、出てくる。
美香「実はゆっくりできなくなっちゃったから顔だけ見に来たの。ご飯のお金ある? 大丈夫?」
えま「うん大丈夫」
宮本、口を開くのを必死に我慢している。
桃香「ねぇ、後ろにいるのってえまのお父さんとお兄ちゃん?」
えま「あぁ……うん、そう」
桃香「こんにちは!」
宮本「いつもえまと仲良くしてくれてありがとうね」
類「はじめまして、えまの兄です」
桃香「やばい! お父さん超ダンディーだし、お兄さん超イケメン! 芸能人みたい!」
教室の中から生徒が集まって来る。
宮本と類、ニタニタする。
えま「はいはい分かった。来てくれてありがとうねー」
えま、宮本と類の背中を押す。
宮本「もうちょっといさせてくれよ!」
類「えま押すなってー」
美香「じゃあ、連れて帰るわね。桃香ちゃんもまたね!」
桃香「はい、また!」
えま、美香に手を振る。
美香、宮本と類を引っ張って行く。
廊下を歩く宮本と美香と類。
類「ていうかアイツどこ行ったんだよ。もしかして迷子?」
美香「子供じゃないんだから大丈夫よ。連絡しておく」
美香、スマホを出す。
× × ×
えま、3人の背中を見送る。
女子1「ねぇ、えまの家族やばいね!」
女子2「お母さんも綺麗だし、お父さんもお兄ちゃんもカッコよすぎ!」
えま「そんなこと言っちゃダメダメ。調子に乗って大変だから」
えま、女子と教室の中に入って行く。
○同・校庭
陽斗、マスクにカラーグラスをつけて帽子を被った姿で出店で賑わう校庭に立ちつくす。
受け取った地図を指でなぞりながら歩き出す。
○同・廊下
すれ違う生徒が陽斗をチラチラ見る。
陽斗、気まずそうに歩く。
○同・教室前
陽斗、縁日の教室の前で足を止める。
桃香「縁日、楽しいですよ~」
陽斗、呼び込みをしている桃香に近づく。
陽斗「……すいません。えまいますか?」
桃香、怪しんで陽斗を見つめ、目を見開く。
桃香「はいッ! すぐ呼んできます!」
桃香、慌てて教室の中に行く。
通りかかる生徒がヒソヒソ会話しながら陽斗を見る。
陽斗、帽子を目深にする。
えまと桃香、走って教室から出てくる。
えま「(小声で)どうしているんですか⁉︎」
えま、陽斗の手を掴んで端の方まで引っ張る。
陽斗「美香さんたちと来たんだけど。途中で見失った」
えま「(小声)ママたちもう帰りましたよ! 陽斗くんも早く帰ってください!」
陽斗「例の先輩に見せつけたいって言ってたじゃん? せっかく来たし、彼氏のいない可哀想なえまのために、しょうがないから俺がその役やろうかなって」
えま、目が点になる。
陽斗「おーい?」
と、えまの顔の前で手をかざす。
えま「何言ってるんですか! ダメですよそんなことさせられません!」
陽斗「俺、一応新人俳優賞受賞してるよ」
えま「そういう心配をしてるんじゃなくて……!」
えま、すっかり乗り気の陽斗を見て諦める。
えま「はぁ……絶対にばれないようにしてくださいね⁉︎ 何もしなくていいですから!」
陽斗、頷く。
女子が群がって来る。
女子1「えま、こちらのイケメンは?」
女子2「もしかしてえまの彼氏?」
えま、答えようとする陽斗のマスクの口元を押さえる。
えま「あ、いや親戚の……」
女子3「なんか芸能人みたいだね」
えま、陽斗を隠すように前に立つ。
えま「違うの! この人、人見知り激しくて、陰キャで、普段は家からほとんど出ないから実は今日久々の外出なの! 特に女子が近づくと緊張で蕁麻疹でちゃうから!」
一同「へ、へぇ……」
と、陽斗を見ながら引いている。
桃香、その様子を見てクスクス笑う。
えま「じゃあ、私この人案内しなきゃだから!」
陽斗「あ、ちょっ!」
えま、陽斗の手を握って引っ張って行く。
○同・グラウンド
えまと陽斗、手を繋いだまま出店の通りを歩く。
陽斗「で。誰が人見知りが激しい陰キャだって?」
えま、ギクッとする。
えま「だって、しょうがないじゃないですか! 全然隠せてないんですよ芸能人オーラを! JKを舐めちゃダメ! ああでも言わないと絶対バレてました! それに人見知りは間違ってないでしょ?」
陽斗「まぁそうだけど……」
陽斗、えまに握られたままの手を見る。
えま、それに気づいてパッと手を離す。
えま「あっ、ごめんなさい……」
陽斗「いや……うん」
気まずい空気が流れる。
陽斗「あ! 俺アレ食べてみたかったんだよ!」
陽斗、チーズハットグの店を指さす。
えま「いいです……よ……」
えま、店の方を見て固まる。
真斗が店に立っている。
陽斗「もしかして、あれが元彼?」
えま、コクリと頷く。
陽斗「じゃあなおさら行かなきゃじゃん」
陽斗、店に向かって歩き出す。
えま「ちょっと待ってください!」
えま、陽斗を引き止める。
陽斗「なんで? 見せつけるんじゃないの?」
えま「……そうですけど」
○同・店の前
真斗「いらっしゃいませー!」
真斗、えまを見て驚く。
真斗「えま……」
えま、軽く頭を下げて真斗から目を逸らす。
陽斗、わざとえまの手を握る。
陽斗「えま、これ2人で一緒に食べよ」
えま「あ、はい……うん」
陽斗「これ1つ下さい」
真斗「……400円です」
陽斗、真斗にお金を渡す。
真斗、会計をしながら
真斗「……(陽斗を見て)お兄さん?」
えま「えっと……」
陽斗「彼氏ですけど」
真斗「……」
生徒「チーズハットグ1つお待たせしました」
と、えまに渡す。
えま「……ありがとうございます」
陽斗「ありがとうございます」
と、えまの手を引いて歩いていく。
○同・休憩スペース
陽斗とえま、席に座る。
陽斗「えまも食べる?」
えま「……いや、私は大丈夫です」
陽斗「そう?」
と、食べ始める。
陽斗「すごい顔してたなあの先輩」
えま「はい……何でですかね」
陽斗「そりゃあ……」
真斗の声「えま!」
声の方に真斗の姿。
陽斗、チーズハットグを置いて立ち上がり、えまの手を握る。
陽斗「行こ!」
えま「行くってどこに⁉︎」
走って逃げる陽斗とえま。
真斗、2人を追いかける。
○同・校舎内
陽斗とえま、人混みの間を縫って走る。
陽斗、追いかけてくる真斗をチラチラ見ながら、
陽斗「結構しつこいな」
えま、息が上がる。
えま「ハァツ、ハァッ。陽斗くん速ッ、待って!」
陽斗「じゃあ手離す?」
と、走りながら聞く。
えま、首を横に振って、
えま「……やです」
陽斗「(フッと笑って)了解!」
廊下の角で、2人が走り去る様子を盗撮している女子中学生。
ブレていてはっきりとは分からない程度。
○同・教室内
陽斗とえま、空き教室の扉を開けて中に入る。
椅子と机が並んだ静かな教室。
陽斗、窓際まで行ってえまの方に振り向く。
えま「?」
陽斗の顔がえまに近づく。
えま、反射的に後ろに下がろうとする。
陽斗、えまの後頭部に手を添えて自分に引き寄せる。
触れそうな距離で止まる2人の唇。
えま、息を止めて固まる。
真斗が教室の前に着き廊下から2人を見る。
真斗「!」
真斗、目を逸らしてその場を離れる。
陽斗「お、行った」
陽斗、ゆっくりえまから顔を離す。
えま、「はぁっ」と止めていた息を吐く。
陽斗「どう? うまくいったんじゃない?」
えま、切なそうに廊下を見つめる。
陽斗「どうかした?」
えま「……あの頃は本当に悲しくて悔しくて。絶対見返してやるって意気込んでたんです。でもいざこうして自分なりの仕返しをしてみると、思ったよりスカッとしないもんなんですね……」
陽斗「そっか……」
えま「ごめんなさいッ! 陽斗くんに手伝ってもらったのにこんなこと言って!」
陽斗「それくらい先輩のこと本気で好きだったってことじゃん。いい恋愛、してたんだな。いいねぇ、アオハルじゃん」
えま「だといいな~!」
と、伸びをする。
陽斗「でも俺もちょっと調子に乗り過ぎた。ごめん!」
えま「いえ! むしろありがとうございました。私もこれで吹っ切れました。それにしても、自然な演技だったな~さすが新人俳優賞!」
と、歩いていく。
陽斗、えまの背中を見つめながら、
陽斗「演技……か」
と、呟く。
えま「陽斗くん? どうかしました?」
陽斗「いや。なんでもない!」
と、えまの隣に行く。
えま「あれ。そういうえば陽斗くん。ハットグは?」
陽斗「そうだ! さっきのテーブルに置いてきちゃった!」
えま「えぇ⁉︎」
陽斗「急いで戻んなきゃ!」
と、小走りしだす。
えま「走んなくてよくないですか?」
と、笑って陽斗を追いかける。
えま、隣を走る陽斗の横顔を見て、
えま「……私は今が一番アオハルです」
と、呟く。
家族と陽斗が朝ごはんを食べている。
美香「そういえば、今年はえまたちのクラスは文化祭何するの?」
えま「……縁日」
宮本「おぉ! パパも遊びに行こうかなぁ」
宮本、えまの様子を伺いながら聞く。
えま「……派手な格好は絶対やめてね」
宮本「えっ……?」
と、美香を見る。
美香、にっこり微笑む。
宮本「(涙目で)分かった! 保護者の中で一番地味な格好にするからな! 安心しろ!」
類「俺も行こうかな~」
えま「お兄ちゃんは絶対余計なことべらべら喋るからイヤ」
類「そんなぁ! それは父さんだって変わんないだろ!」
宮本「いや、父さんは類と違ってやる時はやれる男だからな」
類「いーや。蛙の子は蛙なんだから、蛙の親も蛙だよ」
えま、呆れながら朝ごはんを食べる。
陽斗と美香、顔を見合わせて頷く。
○高校・校門
文化祭の立て看板。
保護者や他校の生徒が続々と門の中に入って行く。
○同・教室前
教室外の壁に大きく【縁日】と書かれている。
桃香「縁日いかがですか~」
桃香、法被を着て呼び込み。
宮本、美香、類が教室の前に来る。
美香「桃香ちゃーん」
桃香「えまのお母さん!」
美香「えま中にいる?」
桃香「いますよ! 今呼んできますね!」
美香「お仕事中にごめんね」
桃香、「えまー」と扉口から教室の中に向かって叫ぶ。
えま「ママたち早くない?」
と、出てくる。
美香「実はゆっくりできなくなっちゃったから顔だけ見に来たの。ご飯のお金ある? 大丈夫?」
えま「うん大丈夫」
宮本、口を開くのを必死に我慢している。
桃香「ねぇ、後ろにいるのってえまのお父さんとお兄ちゃん?」
えま「あぁ……うん、そう」
桃香「こんにちは!」
宮本「いつもえまと仲良くしてくれてありがとうね」
類「はじめまして、えまの兄です」
桃香「やばい! お父さん超ダンディーだし、お兄さん超イケメン! 芸能人みたい!」
教室の中から生徒が集まって来る。
宮本と類、ニタニタする。
えま「はいはい分かった。来てくれてありがとうねー」
えま、宮本と類の背中を押す。
宮本「もうちょっといさせてくれよ!」
類「えま押すなってー」
美香「じゃあ、連れて帰るわね。桃香ちゃんもまたね!」
桃香「はい、また!」
えま、美香に手を振る。
美香、宮本と類を引っ張って行く。
廊下を歩く宮本と美香と類。
類「ていうかアイツどこ行ったんだよ。もしかして迷子?」
美香「子供じゃないんだから大丈夫よ。連絡しておく」
美香、スマホを出す。
× × ×
えま、3人の背中を見送る。
女子1「ねぇ、えまの家族やばいね!」
女子2「お母さんも綺麗だし、お父さんもお兄ちゃんもカッコよすぎ!」
えま「そんなこと言っちゃダメダメ。調子に乗って大変だから」
えま、女子と教室の中に入って行く。
○同・校庭
陽斗、マスクにカラーグラスをつけて帽子を被った姿で出店で賑わう校庭に立ちつくす。
受け取った地図を指でなぞりながら歩き出す。
○同・廊下
すれ違う生徒が陽斗をチラチラ見る。
陽斗、気まずそうに歩く。
○同・教室前
陽斗、縁日の教室の前で足を止める。
桃香「縁日、楽しいですよ~」
陽斗、呼び込みをしている桃香に近づく。
陽斗「……すいません。えまいますか?」
桃香、怪しんで陽斗を見つめ、目を見開く。
桃香「はいッ! すぐ呼んできます!」
桃香、慌てて教室の中に行く。
通りかかる生徒がヒソヒソ会話しながら陽斗を見る。
陽斗、帽子を目深にする。
えまと桃香、走って教室から出てくる。
えま「(小声で)どうしているんですか⁉︎」
えま、陽斗の手を掴んで端の方まで引っ張る。
陽斗「美香さんたちと来たんだけど。途中で見失った」
えま「(小声)ママたちもう帰りましたよ! 陽斗くんも早く帰ってください!」
陽斗「例の先輩に見せつけたいって言ってたじゃん? せっかく来たし、彼氏のいない可哀想なえまのために、しょうがないから俺がその役やろうかなって」
えま、目が点になる。
陽斗「おーい?」
と、えまの顔の前で手をかざす。
えま「何言ってるんですか! ダメですよそんなことさせられません!」
陽斗「俺、一応新人俳優賞受賞してるよ」
えま「そういう心配をしてるんじゃなくて……!」
えま、すっかり乗り気の陽斗を見て諦める。
えま「はぁ……絶対にばれないようにしてくださいね⁉︎ 何もしなくていいですから!」
陽斗、頷く。
女子が群がって来る。
女子1「えま、こちらのイケメンは?」
女子2「もしかしてえまの彼氏?」
えま、答えようとする陽斗のマスクの口元を押さえる。
えま「あ、いや親戚の……」
女子3「なんか芸能人みたいだね」
えま、陽斗を隠すように前に立つ。
えま「違うの! この人、人見知り激しくて、陰キャで、普段は家からほとんど出ないから実は今日久々の外出なの! 特に女子が近づくと緊張で蕁麻疹でちゃうから!」
一同「へ、へぇ……」
と、陽斗を見ながら引いている。
桃香、その様子を見てクスクス笑う。
えま「じゃあ、私この人案内しなきゃだから!」
陽斗「あ、ちょっ!」
えま、陽斗の手を握って引っ張って行く。
○同・グラウンド
えまと陽斗、手を繋いだまま出店の通りを歩く。
陽斗「で。誰が人見知りが激しい陰キャだって?」
えま、ギクッとする。
えま「だって、しょうがないじゃないですか! 全然隠せてないんですよ芸能人オーラを! JKを舐めちゃダメ! ああでも言わないと絶対バレてました! それに人見知りは間違ってないでしょ?」
陽斗「まぁそうだけど……」
陽斗、えまに握られたままの手を見る。
えま、それに気づいてパッと手を離す。
えま「あっ、ごめんなさい……」
陽斗「いや……うん」
気まずい空気が流れる。
陽斗「あ! 俺アレ食べてみたかったんだよ!」
陽斗、チーズハットグの店を指さす。
えま「いいです……よ……」
えま、店の方を見て固まる。
真斗が店に立っている。
陽斗「もしかして、あれが元彼?」
えま、コクリと頷く。
陽斗「じゃあなおさら行かなきゃじゃん」
陽斗、店に向かって歩き出す。
えま「ちょっと待ってください!」
えま、陽斗を引き止める。
陽斗「なんで? 見せつけるんじゃないの?」
えま「……そうですけど」
○同・店の前
真斗「いらっしゃいませー!」
真斗、えまを見て驚く。
真斗「えま……」
えま、軽く頭を下げて真斗から目を逸らす。
陽斗、わざとえまの手を握る。
陽斗「えま、これ2人で一緒に食べよ」
えま「あ、はい……うん」
陽斗「これ1つ下さい」
真斗「……400円です」
陽斗、真斗にお金を渡す。
真斗、会計をしながら
真斗「……(陽斗を見て)お兄さん?」
えま「えっと……」
陽斗「彼氏ですけど」
真斗「……」
生徒「チーズハットグ1つお待たせしました」
と、えまに渡す。
えま「……ありがとうございます」
陽斗「ありがとうございます」
と、えまの手を引いて歩いていく。
○同・休憩スペース
陽斗とえま、席に座る。
陽斗「えまも食べる?」
えま「……いや、私は大丈夫です」
陽斗「そう?」
と、食べ始める。
陽斗「すごい顔してたなあの先輩」
えま「はい……何でですかね」
陽斗「そりゃあ……」
真斗の声「えま!」
声の方に真斗の姿。
陽斗、チーズハットグを置いて立ち上がり、えまの手を握る。
陽斗「行こ!」
えま「行くってどこに⁉︎」
走って逃げる陽斗とえま。
真斗、2人を追いかける。
○同・校舎内
陽斗とえま、人混みの間を縫って走る。
陽斗、追いかけてくる真斗をチラチラ見ながら、
陽斗「結構しつこいな」
えま、息が上がる。
えま「ハァツ、ハァッ。陽斗くん速ッ、待って!」
陽斗「じゃあ手離す?」
と、走りながら聞く。
えま、首を横に振って、
えま「……やです」
陽斗「(フッと笑って)了解!」
廊下の角で、2人が走り去る様子を盗撮している女子中学生。
ブレていてはっきりとは分からない程度。
○同・教室内
陽斗とえま、空き教室の扉を開けて中に入る。
椅子と机が並んだ静かな教室。
陽斗、窓際まで行ってえまの方に振り向く。
えま「?」
陽斗の顔がえまに近づく。
えま、反射的に後ろに下がろうとする。
陽斗、えまの後頭部に手を添えて自分に引き寄せる。
触れそうな距離で止まる2人の唇。
えま、息を止めて固まる。
真斗が教室の前に着き廊下から2人を見る。
真斗「!」
真斗、目を逸らしてその場を離れる。
陽斗「お、行った」
陽斗、ゆっくりえまから顔を離す。
えま、「はぁっ」と止めていた息を吐く。
陽斗「どう? うまくいったんじゃない?」
えま、切なそうに廊下を見つめる。
陽斗「どうかした?」
えま「……あの頃は本当に悲しくて悔しくて。絶対見返してやるって意気込んでたんです。でもいざこうして自分なりの仕返しをしてみると、思ったよりスカッとしないもんなんですね……」
陽斗「そっか……」
えま「ごめんなさいッ! 陽斗くんに手伝ってもらったのにこんなこと言って!」
陽斗「それくらい先輩のこと本気で好きだったってことじゃん。いい恋愛、してたんだな。いいねぇ、アオハルじゃん」
えま「だといいな~!」
と、伸びをする。
陽斗「でも俺もちょっと調子に乗り過ぎた。ごめん!」
えま「いえ! むしろありがとうございました。私もこれで吹っ切れました。それにしても、自然な演技だったな~さすが新人俳優賞!」
と、歩いていく。
陽斗、えまの背中を見つめながら、
陽斗「演技……か」
と、呟く。
えま「陽斗くん? どうかしました?」
陽斗「いや。なんでもない!」
と、えまの隣に行く。
えま「あれ。そういうえば陽斗くん。ハットグは?」
陽斗「そうだ! さっきのテーブルに置いてきちゃった!」
えま「えぇ⁉︎」
陽斗「急いで戻んなきゃ!」
と、小走りしだす。
えま「走んなくてよくないですか?」
と、笑って陽斗を追いかける。
えま、隣を走る陽斗の横顔を見て、
えま「……私は今が一番アオハルです」
と、呟く。