造船王はその愛を諦めきれない~その人は好きになってはいけない相手でした~

書類整理に勤しむ午後。
ブラインドの隙間からは、真夏の暑さからは少しだけ和らいできた日射しが差しこむ。

ウィステリアマリングループは、ツインタワー東棟の六十五階、事務所フロアとしては、最上階のワンフロアを本社のオフィスとしている。

オフィスをここにした理由は空港へのアクセスも良く、港はクルーズ船が多く立ち寄るからで、一番の理由は地平線を眺めながら仕事ができるからだ。

ウィステリアマリングループは海事産業の会社だ。
造船、旅客船の運航が主で、グループ会社には小型ボート販売や航海士・クルーズビジネスを学べる学校などもある。

曾祖父から続く会社で、造船の世界ランキングでは長らく三位をキープしていた。俺は三年前、父親の急逝によりCEOを担うことになった。

当時三十一歳。
遺言での事業継承に、若造に何ができるのだと反発も少なくはなかった。

囁かれる陰口が聞こえるたびに見返してやると誓い、先代では叶うことのなかった、ずっと手が届きそうで届かなかった世界ランキング一位の座を目指して奔走した。

俺が必ず世界一に押し上げてやる。

海運会社の買収を続け、会社を急成長させながら、父の死と同時期に着工が始まった世界最大規模の豪華客船、ロイヤルグリシーズの完成を待った。

あれから三年。
ロイヤルグリシーズは、造船中から客室を一部分譲型とし別荘として販売し、プレスへの広報にも力を入れてきた。今年やっと就航し、この秋に世界を巡るクルーズが始まる。

ツインタワーから見える、ベリが丘港に初入港することが決まっており出航もそこから始まる。今はその最終段階にきていた。

やっとここまで来たと、感慨深いものがある。

書類を置き、一息つくために海を眺めながら伸びをすると、タイミングよくデスクにコーヒーが置かれた。

「藤堂CEO、ここ最近、社内で大盛り上がりの噂を知っておりますか?」

茶化した物言いをしたのは秘書の朝倉(あさくら)だ。

朝倉は自分の分のコーヒー用意もしており、デスク横のローテーブルに置くと深々と座った。
これは暗に、休憩をしましょうと言われているのだとわかった。
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