造船王はその愛を諦めきれない~その人は好きになってはいけない相手でした~

日曜日の午前中、久しぶりに自宅にもどったら自分の部屋がなくなっていた。

市営団地の4DK。
みんな狭いのを我慢してなんとか過ごしていたので、一カ月ちょっと留守にしただけで、あっというまに浸食されてしまっていた。

特にお母さんは一人になれる場所が欲しかったらしく、最近は“元”わたしの部屋で過ごしているらしい。

心配して様子を見に戻ってきただけなのに、洋服や雑貨を持ち出してほしいと言われる始末だ。

これで今、藤堂家をクビになったらどうしよう。
居場所がなくて路頭に迷ってしまう。

せっかくだから、季節が夏から秋になってきたので、長袖の服を持っていこうとまとめていると、弟の健と、いとこのカズ君が一緒に外から帰って来た。

「あ、凛いるじゃん。なんか久しぶりなんだけど」

カズ君は中森和貴(なかもりかずき)と言って、幼少の頃からの知り合いだ。
家族ぐるみでよく遊んでいた。

長男の健とはいつまでも仲がよく、今でもよく一緒にゲームをしているらしい。オンラインゲームというものらしいが、まったくやらないわたしはよくわかっていない。

「カズ君いらっしゃい。そうかも、一か月くらい会ってなかったかもだね」

「まあ、俺も忙しかったからなあ。……やっとさ、返済の目処がついてきたんだ」

カズ君は声を潜めた。

お父さんの会社、ASHIMORI(あしもり)はひとりで立ち上げたわけではなく、カズ君のお父さんと二人三脚で経営していた。

ASHIMORIは素材開発から製造までを担う部品メーカーで、開発した部品がヒットし一気に上場企業となった。
数年は調子が良く躍進したが、三年前に突如倒産した。

当時、日本最大手の造船会社、ウィステリアマリングループと契約が取れて喜んでいた矢先のことだ。
そのウィステリアマリンがライバル会社に契約を乗り換えたからで、それも着工の直前の話で、根耳に水だったそうだ。
< 29 / 85 >

この作品をシェア

pagetop