造船王はその愛を諦めきれない~その人は好きになってはいけない相手でした~

10

クルーズの旅が終わるとあっという間に現実に戻り、俺はすぐに仕事漬けの日々だ。

凛のおかげで、思いがけず幸せな旅となった。
しかし最終日からは元気がなく、船に酔ったと言っていたが、疲れがでたのだろうか。

色々と無理をさせすぎたかも。
次の日も仕事へ出るのを見送ってくれたが、あまり顔色が良くなかった。昼にメッセージを送っても返事がない。

早く帰りたかったが、休み明けでそうそう終われる筈もなく、遅い時間にやっと仕事を終え帰宅すると、父親の具合が悪く実家に戻ると書置きがあった。

メッセージをくれればいいのにと不審に思ったが、なにか理由があったのだろうとその時は納得した。

しかし、それからしばらく電話をしてもすれ違ってばかりで、やっと連絡をしてきたと思ったら、凛はさらに一週間休みたいと連絡をしてきた。
雅たちが帰国するから、そろそろ復帰してもらいたい気持ちもある。

(――――おかしい)

急によそよそしくなったし、明らかに避けられている。

怒らせるようなことをしたか?

それとも、様子がおかしくなったのは船でのトラブルからだ。あの時、俺の知らない何かがあったか、それとも身分を黙っていたことが悪かった?
原因がわからず苛々とする。

「まさか、ワンナイトのつもりじゃないよな」

自嘲気味に呟く。

船を降りたらさよならだなんて、凛に限ってあるはずがない。

「CEO、寄港式のトラブルの件です。ちょっと時間がかかりましたが、いろいろわかってきましたよ。メールでも同じものを送っておきましたが、こちらの資料をどうぞ」

朝倉に資料を渡され受け取る。

「中森は、三年前に破産した造船部品の下請け会社で役員をやっていました」

「造船部品……?」

「ASHIMORIという会社です」

ということは、会社に恨みをもった犯行か? 朝倉の説明を聞く。
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