あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした



「……また来るよ」
「本当?」
「うん…その時にはもしかしたら何もかもこの手から無くなっているかもしれないけど…やるべきことはちゃんと果たしてくる」

例え総司に許してもらえなくてもちゃんと謝ろう。
次会ったら斬ると言われているけどその時はその時だ、運命に身を任せるしかない。

(あたしはただ…やるべきことをするだけだ)

そう決心がついたのも楓のお陰かもしれない。
まぁ本人には恥ずかしくて言えないのだが。

「いつでも来て良いからね…空蒼は私の友達なんだから」
「っ……うん、ありがとう」

友達。
その言葉が空蒼の心にストンと落ちていった。
嬉しい感情がこみ上げると同時に、責任も何故か強く感じた。

(…?)

友達ができるという事は、この時代ではその分責任が強くなる。
その意味に空蒼はまだ気付かない。

「…本当にこの金平糖貰ってもいいのか?」
「ぜひ貰って。それが空蒼の役に立つのなら私は嬉しいよ」
「…本当にありがとう」

そうお礼を言うと、序盤からテーブルに置いてあった金平糖を手に取り、懐にしまった。
これで許されるとは思っていない。これは空蒼の自己満足、その行動によって自分自身がどうなろうと構わないのだ。
そう思う空蒼の心はまだまだ弱い、人と関わってしまった以上、自分の事だけを考えていては生きていけないのに。

「じゃまた…」
「うん…また」

空蒼は入り口に歩みを進める。
一歩一歩確実に地面を踏みながら、ここに来た時より視界が広く見えるのを実感する。それだけで空蒼は自分に自信が持てる気がしていた。

「あ…」

扉に手をかけた所で空蒼の動きが止まった。
何かを言い忘れたのか楓に向き直る。

「ん?どうかした?」

その行動に不思議な顔をする楓。
お盆を棚の上に置いて楓も動きを止めた。

「…女の楓から見て、”俺”はちゃんと男に見えてるか?」

ここを出たら空蒼は男だ。
女とばれないように行動しなければならない空蒼にとってそれは大事な事。

「…うん、大丈夫。男前だよ空蒼」
「……行ってくる」
「いってらっしゃい」

ガラガラガラッ

(っ……眩しい…)

太陽の日差しに目を細めながら、お店を後にした。
後ろを振り返り、楓のお店を見あげると、暖簾には団子屋と書いてあった。

(団子屋……今度街に来るときはここを目指してこよう)

街の人々が行きかう中、空蒼はそう心に誓って足を踏み出した。



< 105 / 118 >

この作品をシェア

pagetop