十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。

胸のきしみ

◇◇◇

「昨日と、香りが違うな」

『良かったら、明日も欲しい』。
 昨夜カミロからそのように望まれたため、フィーナは今夜もハーブティーを持って彼の部屋へと訪れている。

 彼の部屋は変わらず静かだが、昨日よりもいくらか気まずさは無くなった。カミロの表情が、こころなしか柔らかく感じられるからだろうか。

 思わず、昨日の笑顔を思い出してしまった。今夜も彼の雰囲気がなんとなく甘い気がして、動揺したままのフィーナは図書館でのことを切り出せないままでいる。

「ええと……これは茶葉のブレンドが違うのです。爽やかな香りに鎮静作用があるそうで、店の専門員に勧められて」
「そうか、とても飲みやすい」
「よかったです。でしたら、明日もこちらをお持ちしましょうか」
「……明日も?」

 カミロはそのつもりが無かったようで、目を見開いて驚いている。彼の表情で、フィーナは自身の勘違いに気が付いた。

 思えば昨夜は『明日も欲しい』と言われただけで、毎日のように頼まれたわけでは無い。
 けれどフィーナはなんとなく、毎晩お茶を出し続けるつもりでいた。そんな彼女の提案は、カミロにとって予想外のことであったようで。

「あ、いえ……またカミロ様が飲みたいときにお持ちします」
「では明日も欲しい」

 カミロは即座に、語気強めで言い切った。

「明日も、明後日も欲しい。できるなら毎晩欲しい」
「そ、そんなにお気に召しました?」
「ああ」

 向かいに座るカミロは熱いハーブティーをごくごくと飲み干すと、あっという間におかわりに突入した。
 ハラハラする。彼がハーブティーが気に入ったのは分かったから、熱々のものはゆっくり飲んで頂きたい。コーヒーを一気飲みされた時も驚いたのだが。

「は、話をしながら飲みませんか」
「話を」
「はい、そんなに急いでお飲みになると火傷してしまいます」

 フィーナがそうして『心配』すると、カミロはやっと飲むことをやめて、カップをテーブルにコトリと置いた。


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