十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。

また、幕は上がる

 夜も深けたトルメンタ伯爵家。
 皆が寝静まった屋敷に、硬い靴音が鳴り響く。
 
「カミロ様、お食事は」
「いい。軽く食べてきた」
「しかし、このように毎日遅いお帰りで……食事くらいしっかりお召し上がりになりませんと、お身体に障ります」

 心配性の執事はカミロのあとを着いて歩き、あれやこれやを心配するけれど。本当に何も欲しくないのだ。城でも、上役から「何か食べろ」としつこく言われてやっと軽いものを流し込んだくらいで。

 執事を廊下へと置いたまま自室の扉を閉めると、カミロは着の身着のままベッドに倒れ込んだ。
 ランプひとつが灯る、ほの暗い部屋。
 消えてしまいたいくらいに疲れている。
 身体も頭も。そして心も。
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