十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
 カミロへの返答に困っていた、そんな時。上階から、カミロの妹チェリ・トルメンタの鼻歌が聴こえてきた。

 チェリは鼻にかかったウィスパーボイスで、甘く幸せなメロディを奏でる。きっとマシュマロのような愛されボディに薄いドレスを纏い、連日届く男達の恋文に目を通しているのだろう。ただ鼻歌が聞こえるだけだというのに……彼女の部屋からは、溢れんばかりの色気が漂う。

 チェリの鼻歌に聴き惚れて、フィーナは思い出した。彼女から聞いた『男をおとす』テクニックを。

「……スキンシップです! 男性にはスキンシップが有効だと聞きました」

 チェリは魔性の女だった。
『さりげなく触れて、気を持たせれば一撃よお』と彼女からテクニックは聞いていた。そんなこと出来るわけ無いと敬遠していたが、次で縁談も十回目。背に腹は変えられない。

「そんなこと、どこで聞いたんだ」
「チェリ様からです!」
「あいつか……それで、何をするつもりだ」
「……何を?」
 
 そういえば、『スキンシップ』といっても何をすれば良いのだろう。チェリの言うような、さりげなく男性の身体に触れるタイミングなどあるだろうか。少なくとも、これまで九回繰り返した見合いでは、そんな機会は無かったように思うのだが。

「て、手を握ったり、抱きついたり、でしょうか」
「おまえは会ったばかりの好きでもない男にそういうことをするのか」
「好きになる『予定』の男です! 出来ます!」
「見合いに来た男を好きになるのか」
「な、なりますよ! 未来の夫なのですから!」

 縁談に関係の無いカミロから何故ここまで追求されなければならないのか分からないが、フィーナも必死だった。
 フィーナの見合いも、次でとうとう十回目。実はこれまでの九回で、わりと傷ついている。うら若き乙女が、相手から断られ続けて平気なわけがない。
 絶対、次で決めるのだ。次に会う縁談相手は、未来の旦那様だ。きっと好きになるし、好きになってもらう。スキンシップだって出し惜しみしない。

「……そうか」
「そうです! 次こそ結婚してみせます!」

 フィーナは拳を握りしめ、十回目の見合いに向かって気合を入れた。
 そんな彼女を図書室に残したまま、カミロはというと「そうか……そうか……」となにか思案の表情を浮かべながら去っていったのだった。

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