【コンテストエントリー作品】はんなり舞子はミステリアスな極S(ごくエス)京男

第1話 呪いと口づけ

<シナリオ表記>
M=モノローグを意味します。
N=主人公視点によるナレーションを意味します。
×××=短い時間経過を意味します。

※この物語フィクションです。実在する人物や団体、地名などとは関係ありません。

○祇園・花見小路(はなみこうじ)

テロップ「京都・祇園」
桜舞う花街。置屋やお茶屋が軒を連ねる。
石畳の上を、元気いっぱいに歩く少女・小野寺(おのでら)知恵利(ちえり)
肩までで切りそろえられた黒髪。
飾り気のない純朴な装い。
大型キャリーケースを引いている。
知恵利(N)「わたし、小野寺知恵利は舞妓さんになるために、京都へやってきた」
知恵利の表情は希望に満ちあふれている。
知恵利(N)「この頃のわたしはまだ知らなかった。祇園・花街に隠された秘密をーーー」

置屋(おきや)・玄関
知恵利、置屋の引き戸を勢いよく開ける。
知恵利「こんにちは! 今日からお世話になる見習いの小野寺知恵利です! よろしくお願いします!」
知恵利の元気な声が玄関に響き渡る。
奥から、高身長で整った顔立ちの青年が現れる。美形ではあるが、目つきが鋭い。
非常に冷たい視線で、知恵利を一瞥して、
蒼真「5分早い。定刻に来いと言ったはずだが」
知恵利「す、すみません。遅れちゃいけないと思って・・・」
蒼真「遅くても早くても駄目だ。定刻通りに来い。わかったな?」
知恵利「は、はい!」
蒼真「上がれ」
キャリーケースを抱えて、蒼真の後をついていく知恵利。
知恵利(M)「あれ? 置屋って女の人だけで仕切っていて、男性は入れないんじゃなかったっけ?」
蒼真「白河(しらかわ)蒼真(そうま)だ。この置屋の管理をしている。」
知恵利に背を向けたまま話す蒼真。
知恵利「はい。蒼真さん、よろしくお願いします!」
蒼真「あと、お前は『見習い』じゃない。」
知恵利「え?」
蒼真「お前は見習いの前の段階、『仕込み』だ。これから舞妓としての適正があるかどうかを見極める。先輩の舞妓について、身の回りの世話をしながら舞妓について学べ。十ヶ月後に適性試験を行う」
知恵利「はい! “お姉さん”のもとで勉強するんですよね。がんばります!」
蒼真、立ち止まって知恵利をチラリと見る。
蒼真「その“お姉さん”の仕込みに耐えられればの話だが」
冷たい視線で知恵利を見下ろす蒼真。
緊張した知恵利の表情。

○置屋・奈々緒の部屋
蒼真が部屋の襖を開ける。中を覗き込む知恵利。
蒼真「これからお前を仕込む舞妓の奈々緒(ななお)だ」
広く空いた襟元から除く白いうなじ。
着物を着込んで、半田らの帯。
日本髪を結い上げた艶やかな姿。
艶やかな舞妓が一人座っている。
知恵利「わぁ・・・」
奈々緒を見て、頬を紅潮させる知恵利。ごぐりとつばを飲む。
知恵利に向かってはんなり微笑む奈々緒。
垂れ下がった目尻。口元のほくろ。
雅やかなオーラを放っている。
奈々緒「よろしゅう」
指を慎ましくそろえ、頭を下げる奈々緒。
立ったままの知恵利、急いで畳の上に座り、土下座で挨拶。
知恵利「お、小野寺知恵利です。よろしくお願いします!」
顔を上げた知恵利。間近で奈々緒の顔を正面から見る。

インサート
知恵利の脳裏に一人の舞妓の姿がよぎる。
知恵利(M)「あれ? この人、前にーーー」

奈々緒「ちえり。どんな字、書くの?」
知恵利「えっと、漢字は、知恵が利くと書いて知恵利と読むんですけれど・・・」
知恵利、畳の上に指文字で名前の漢字を書き、
恥ずかしそうにうつむく。
奈々緒「へぇ。名前のわりにアホそうやねぇ。」
平然とディスる奈々緒。
突然の攻撃に、呆気にとられる知恵利。
微笑む奈々緒を改めて見る知恵利。
知恵利(M)「ちょっとびっくりしちゃったけど、そんなの全部吹き飛ぶくらいに美しい奈々緒さん。
まるで百合の花みたい。舞妓さんって可愛らしいイメージだったけれど、奈々緒さんは色っぽくて、とっても美人。背が高くてスマートで・・・・」
奈々緒に見とれている知恵利。
ぽーっとなってしまっている。
奈々緒「それと先に言うとくけどな?」
知恵利「(はっとなって)ふえ?」
奈々緒「僕、男やから」
目を丸くする知恵利。
言われた言葉の意味が理解できない。
表情一つ変えずに知恵利を見ている蒼真。
奈々緒、スッと冷酷な表情になって。
奈々緒「よそに喋ったら殺すから。ええな?」
蛇に睨まれた蛙のように硬直する知恵利。
奈々緒「今日から、僕がみっちり仕込んだるさかい、覚悟しいや」
ニヤリと微笑む奈々緒。
驚きのあまり身動ぎひとつできない知恵利。

○置屋・奈々緒の部屋
部屋の前に奈々緒と知恵利が立っている。
奈々緒「僕の部屋の片付けが『ポチ』の最初の仕事な」
知恵利「ポチ? もしかして、それ、わたしのことですか?」
奈々緒「せや。なんか、知恵利って感じせえへんし。今日からポチで」
知恵利「え???」
理解不能の知恵利の表情。
奈々緒「僕がきみのご主人様やから、ポチで十分ちゃう?」
ふふふっと面白がっている奈々緒。
知恵利「・・・・・・」
奈々緒「で。隣が僕の部屋やねんけど、まずはここの片付けからん頼もうかな」
奈々緒にうながされて、襖を開ける知恵利。
と、襖を開けた途端、ものがなだれ込んでくる
知恵利「ぎゃーーーー!!!」
襖の向こうは、脱ぎ散らかされた服、散らばった本などが散乱している。
魔窟。
言葉を失っている知恵利。
知恵利「ここは本当に奈々緒さんの部屋ですか? 物置小屋ではなく?」
奈々緒「僕の部屋。不思議やねぇ。普通に生活してたら、こうなっちゃうねんなぁ~。ほんまに不思議~」
知恵利(M)「その生活、普通じゃないと思います・・・」
奈々緒「じゃあ、僕そろそろ『お花』へ行ってくるから」

テロップ(説明)
舞妓は置屋で寝泊まりをしており
仕事が入るとお茶屋(ちゃや)
派遣される

知恵利「お花・・・ あ、舞妓さんのお仕事のこと!」 
奈々緒「今日、夜に八坂(やさか)さんへ行こう」
知恵利「やさかさん?」
奈々緒「ちょうど見頃やし、見せたいもんあるねん。22時にしだれ桜の木の前でな」

×××
奈々緒の部屋を片付けている知恵利。
分厚い本を拾い上げると、中に挟まれていた何かがピラッと畳に落ちる。
知恵利「あ・・・」
落ちたものを拾い上げる。(読者には内容を見せない)
知恵利「この人・・・・・・」

八坂神社(やさかじんじゃ)・境内(夜)
桜の木が満開。大勢の花見客の間をすり抜けていく知恵利。
× × ×
しだれ桜の巨木の前。この付近だけ人が少ない。
舞妓姿の奈々緒が桜を見上げている。
奈々緒に駆け寄る知恵利。
知恵利「奈々緒さん! おつかれさまです」
奈々緒「おう。きれいやろ、この桜」
知恵利「ええ。とっても。きれい・・・」
知恵利(M)「きれいだけど、どこか妖しげな美しさもある」
奈々緒「僕は八坂神社の中で、これが一番すきな桜の木やねん」
知恵利「でも、この木の周りだけ、人が少ないですね。どうしてなんでしょう?」
周囲には知恵利と奈々緒の他に、不思議と人がいない。
奈々緒「呪われてるやて、この桜の木。この桜の木を調合してできた薬を飲むとな。その人の時間は15歳で止まってしまうらしい」
知恵利「え・・・」
奈々緒「永遠に15歳のまま。大人にもなれず、死ぬことも許されず生き続けるんやって」
切なげな表情の奈々緒。
知恵利「そんなのって・・・」
奈々緒「って嘘に決まってるやろ。しょーもないオカルト話、まに受けんな。小学生か」
デコピンされる知恵利。
知恵利「いで」
奈々緒「まあ、見た目も小学生くらいお子様やけど、いくつやっけ?」
知恵利「15歳です」
奈々緒「へぇ。僕が17やから。2コ下か。彼氏おるん?」
知恵利「ええええ! いるわけないです! というか、いたことないです・・・」
奈々緒「一度もいたことないの? 15で?」
信じられないというふうに知恵利を見つめる奈々緒。
知恵利「そんなに面と向かって言われるとさすがにショックですが、本当にないです・・・」
知恵利(M)「正直、男の人、ちょっと苦手だし・・・」
奈々緒「ほな処女なん?」
知恵利、身を縮めて。
知恵利「・・・もちろん。です。」
奈々緒「キスも?」
知恵利「・・・したことないです。奈々緒さんばっかり質問ずるいです! わたしにも教えてください!」
あたりを見回して周囲に人がいないことを確認してから小声で、
知恵利「どうして、男の子の奈々緒さんが舞妓を?」
と、奈々緒が知恵利の顎を片手でぐっと持ち上げる。
鼻先がつきそうなほど接近する二人。
奈々緒「その質問の答えは、キスも知らんポチが知るには早すぎるなぁ」
奈々緒の翡翠の瞳を吸い込まれるように見つめる知恵利。
知恵利のくちびるに自分のくちびるを重ねる奈々緒。
知恵利「!」
驚くも拒めない知恵利。しばらく奈々緒のされるがままになる。
ようやく解放され、顔が真っ赤の知恵利。状況が理解できない。
知恵利「えぇ? え?」
奈々緒「そんなに僕のこと知りたいんやったら、これからみっちり教えたるわ」
不適に微笑む奈々緒。
突然の出来事に言葉が出てこず、小刻みに震えながら立ち尽くす知恵利でーー。

(第1話 呪いと口づけ 以上)
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