【コンテストエントリー作品】はんなり舞子はミステリアスな極S(ごくエス)京男

第2話 桜吹雪と痣

<シナリオ表記>
M=モノローグを意味します。
N=主人公視点によるナレーションを意味します。
×××=短い時間経過を意味します。

○時間経過の点描
知恵利(N)「置屋での仕込み生活が始まって1ヶ月ーーー」
炊事、洗濯、掃除など雑務に追われている知恵利の姿の点描。
どの仕事も手を抜くことなく、汗を流しながら、懸命に働いている。
知恵利(N)
「仕込みの生活は、想像していた以上にハードだった。あまりの厳しさに、仕込みの間に辞める人が後を絶たないと蒼真さんが話してくれた。本当に花街で生きていく覚悟のある人しか、舞妓の見習いにすらなれない。外側から見た華やかさとは裏腹に、内側はとても厳しい世界だった」
×××
知恵利(N)「奈々緒さんは毎日10時頃に起きてくる」
寝ぼけ眼の奈々緒が朝食を食べる。
知恵利(N)「私は朝ご飯を用意して、お稽古に行く支度をお手伝い。そして、奈々緒さんのお稽古場についていって、稽古を見学させてもらう」
蒼真が奈々緒を着替えさせている。知恵利は横で補助。
×××
稽古場(和室)
舞踊の稽古(舞踊)をする奈々緒。他の舞妓も数名いる。
その様子を部屋の隅で、目を輝かせながら見ている知恵利。感動している。
知恵利(NM)「舞踊、三味線、茶道、生け花、書画、英語・・・・・・。舞妓さんが身につける伎芸(ぎげい)はとても多い。奈々緒さんは、そのどれもが他の舞妓さんよりも軽やかに、美しくてーーーその姿は人の心を動かす」
奈々緒が伎芸(三味線、茶道、生け花、書画、英語)をしている点描。
×××
舞踊の先生が知恵利のとなりにやってきて。
舞踊の先生「奈々緒さんに教えてもらえるなんて、あんた運が良かったねぇ。あの子は100年に1人の天才やわ。それ以上に、本人が無類の負けず嫌いというか、異常なまでの努力家やけれど」
知恵利「わたしも奈々緒さんみたいになりたいです!」
先生「目標を持つのは良いことやけど、あなたはあなたとして、素敵な舞妓になったらええのよ。あなたは、素直で何でも吸収できそうやから、この世界でやっていけると思う」
優しく微笑む先生。
その励ましに胸が熱くなる知恵利。

○置屋・奈々緒の部屋
支度前の奈々緒。
蒼真と話をしている。
奈々緒、部屋の小窓から庭掃除をしている知恵利を見ている。
髪を結い上げる前、おろし髪のまま。
奈々緒「よーやってるわホンマ。だいたいみんな一ヶ月で消えるのに」
蒼真「仕込み期間中の女が消えるのは、お前のせいだろ」
奈々緒「まあ、否定はせんけど。簡単に生き残れる世界やないから、最初に気づかせたってるだけや。親切心親切心」
奈々緒(M)「自分の今までの生活を捨てて、新しい環境で暮らしていくことはたやすいことではない。それにも柔軟に対応して、かつ僕のいたぶりにも耐えて、意外に根性あるねんな、ポチ」
蒼真「毎回、仕込みでやってきた女に手を出して、潰して。口止めや後処理は誰がやっていると思っている?」
奈々緒「後処理が必要になるのは、それは相手の性格の問題やろ。僕のせいじゃないし」
手をひらひら~とする奈々緒。
蒼真「特に、小野寺知恵利のような純粋なタイプは危険だ。一生懸命やってきた分、その反動で強い思いが深い恨みに変わることもあるだろう。本気で育てる覚悟がないなら早く解放してやれ。後戻りができるうちに」
奈々緒「後戻りか・・・。後戻りできひんように僕をここに縛り続けてるお前が、それを言うんやなぁ」
嫌みったらしく言い放つ奈々緒。
蒼真「さっさと支度しろ」
言って、部屋を出て行く蒼真。
入れ替わりに、知恵利が部屋に入ってくる。
知恵利「お待たせしました! 次はお着付けのお手伝いですね!」
奈々緒「そう。これ全部で8キロあんねん」
知恵利「8キロ!!??」
奈々緒「舞妓の着付けは力仕事やから、普通は着付けを専門でやる男衆(おとこし)っていう着付け専門のスタッフがいてな。その人がやってくれるねんけど、うちは事情が特殊やからさー。
なんでも自分たちで解決せなあかんわけやん? いつもは蒼真がやってくれるけど、ポチにもそろそろ覚えてもらわんとな」
やる気満々の知恵利。
知恵利「ありがとうございます!」
奈々緒が下着を脱ぐ。
ほどよく筋肉のついた男らしい肉体が露わになる。
白雪のような肌の上に、ところどころ入れ墨のような痣が。
知恵利、ドキッとして口元を手で覆う。
知恵利(M)「アザ・・・・・・。ひどい。よっぽど痛めつけないとこんな数にはならない・・・」
目を見張る知恵利。
だが、それはまるで桜吹雪のようでもあり、痛々しくも美しい。
痣を見た知恵利の反応をうかがいつつ指示する奈々緒。
奈々緒「はよ服、着せて」
知恵利「あ、はい!」
ドギマギしながら奈々緒に肌襦袢(はだじゅばん)を着せる知恵利。
指が小刻みに震えている。
知恵利(M)「いつも以上に緊張しちゃう・・・!」
奈々緒「僕の裸見て興奮してんの?」
からかいたっぷりに尋ねる奈々緒。
知恵利「はい。興奮・・・? 緊張してます・・・」
奈々緒(M)「素直すぎやろ・・・こっちが照れるっちゅーねん」
知恵利「あまりにも、その、きれいで。」
奈々緒「そんなふうにエロい目で見られるとさぁ」
奈々緒(M)「エロい気持ちになってくるやん」
奈々緒、知恵利の手をぐっとつかんで、唇を重ねる。
奈々緒「キスしても、逃げへんようになったね」
知恵利「に、逃げません! わたしは奈々緒さんのしてくださることを受け止めるだけです」
知恵利(M)「仕込みに来て一ヶ月間。わたしたちは言葉を交わすよりもたくさんキスをして、お互いのことを知っていった。
人を相手にする仕事だから、人とふれあう機会は少しでも多い方がいいって。これも、言葉で伝えるよりも実戦が一番という奈々緒さんの教育方針だった」
奈々緒「もっとこっち」
知恵利の腰を引き寄せ、自分の体に近づける奈々緒。
半裸の奈々緒に抱きしめられる知恵利。
知恵利「奈々緒さん・・・」
知恵利の首筋に口づける奈々緒。
知恵利(M)「これもお互いを知るための大事な勉強、なんだけど、わたしには刺激が強すぎて・・・」
知恵利「奈々緒さん、あのお支度の準備が・・・お時間が・・・」
奈々緒、知恵利のほっぺに口づけて。
奈々緒「そやね。続きは帰ってからね」
いたずらっぽく舌を出して笑う奈々緒。
知恵利「もぉ・・・」
×××
ぴしっと仕上がっている舞妓・奈々緒。
汗だくの知恵利。
知恵利「着付けがこんなに重労働とは思いませんでした~!」
奈々緒「おつかれさ~ん」
奈々緒(M)「ホンマは時間かかりすぎやけど」
知恵利「ありがとうございます。奈々緒さん、本当におきれいです」
曇りのないまなざし。
奈々緒(M)「毎日見てるのに、ようそんだけ新鮮な反応ができるわ」
奈々緒「ポチも舞妓になれるといいな。そしたら、僕が着付けたる」
知恵利「ホントですか!?」
奈々緒「なれたらの話や」
なでなでされる知恵利。
奈々緒「ん~、でもなぁ~~~」
知恵利の全身を視線でなめ回すように見る奈々緒。
知恵利「な、なんですか?」
奈々緒「色気がないんよな~、ポチには、1ミリも~」
ガーン! とショックを受ける知恵利。
知恵利「1ミリも・・・? ですか・・・3ミリくらいはあると思ってました・・・」
奈々緒「3ミリでは足りんよ。全然足りひん。そんなんでは舞妓になんてなれへんよ」
知恵利「それ、すごく困りますぅ~」
奈々緒「よし! 今度の休み、買い物行こう! 服こうたる! デートや、デート。僕がポチをめっちゃ色っぽく3メートル級の美女にしたる!」
知恵利「デート!!???」

(第2話 桜吹雪と痣 以上)
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