【コンテストエントリー作品】はんなり舞子はミステリアスな極S(ごくエス)京男

第4話 大好きとさよなら

<シナリオ表記>
M=モノローグを意味します。
N=主人公視点によるナレーションを意味します。
×××=短い時間経過を意味します。

○置屋・知恵利の部屋
窓際で、小さな舞妓のフィギュアがついった根付けストラップを眺めている知恵利。

○知恵利の回想(#3の祇園祭デート)
三条大橋で奈々緒が知恵利に、持っていた根付けストラップ(赤)を渡す。
同じものの色違い(青)は奈々緒の手の中。
奈々緒「おそろい。いっこあげる。」
奈々緒らしからぬ言動に、驚きながらも受け取る知恵利。
奈々緒「こういうベタなプレゼントもええやろ?」
知恵利「奈々緒さん・・・!」
感極まって、奈々緒に抱きつく知恵利。
奈々緒「ポチ! 待て! ここ橋の上・・・」
道行く人たちが二人を見ている。
さすがに動揺する奈々緒。
知恵利「ありがとう! 奈々緒さん!」
人目を気にせず、奈々緒に頭をすりすりする知恵利。

○戻って、置屋・知恵利の部屋
ふと冷静になって、
知恵利(M)「デートもして、キスもしてる。それも何度も。なのに、わたしには奈々緒さんが、本当の奈々緒さんの姿が見えていない気がする・・・」

インサート(知恵利のイメージ)
奈々緒のさまざまな表情が浮かぶ。

知恵利(M)「奈々緒さんのこと、もっと知りたい。ときどき見せる寂しそうな横顔。心の奥に隠している気持ちも全部・・・」
切なげな知恵利の表情。ぎゅっとストラップを抱きしめる。
と、1階から奈々緒と蒼真が言い争う声。
声に気づく知恵利。
知恵利「?」

○同・1階 和室前
襖の前に立つ知恵利。
蒼真と奈々緒の話し声。
知恵利(M)「部屋に入っちゃいけない空気を察知!・・・・
でも、なにを話しているのか気になる・・・!ケンカしてたらどうしよ・・・お行儀悪いけど・・・」
と二人の話し声、襖に耳を当てて聞き取ろうとする知恵利。
× × ×
襖の向こう側。室内。
奈々緒「調査はどないなっとんねん。お前がのろのろしてる間、僕はいつまで烏森(からすもり)のアホぼんの相手させられるんや?」
蒼真「仕方ないだろう。解毒剤について知る人物は、烏森家のなかでも限られている。
手がかりをつかむためには、内部の人間。しかも、次期後継者の烏森(からすもり)麗斗氏(かずとし)に近づくのが最も最短距離だ。幸い、お前にひどくご執心なのだから、この好機を逃す手はない」
奈々緒「そのせいで、このありさまや」
奈々緒、あざに手を当てて。
奈々緒「これ以上同じことを続けれたら後戻りできなくなる。」
蒼真、厳しい表情になって、
蒼真「烏森に近づくために、危険を承知でここへ来たんだろう。置いてやっているだけありがたく思え」
よどみなく言い放つ蒼真。
× × ×
襖の前で聞き耳を立てる知恵利。
知恵利(M)「どういうこと? 薬を盛られるとか、危険を承知って一体なんのこと?」
× × ×
奈々緒、さすがにイラッとして蒼真ににらみをきかせる。
奈々緒「結局僕は捨て駒かよ」
舌打ちする奈々緒。
蒼真「・・・こうするしかないだろ」
× × ×
襖の向こう。部屋の外側。
深刻な顔つきの知恵利。

○同・奈々緒の部屋
奈々緒の着付けをしている知恵利。
険しい表情の奈々緒。
大きなため息。
知恵利「どうかされたんですか?」
知らないそぶりで、奈々緒に尋ねる。
奈々緒「んあ? ああ。今日の客、またカラスやねん」
知恵利「烏森麗斗氏さんですよね。よく奈々緒さんをお呼びになる旦那様の。どんな方なんですか?」
奈々緒「このあたりの地域を仕切ってる、烏森家っていうバカでっかい財閥の御曹司や。
えらい気に入られて、困り果ててるねん。他の客を取らせたくないからって、花代(はなだい)、倍額払うからって毎回呼ばれる。
断ったら、さらに値段上げての繰り返し・・・客止めは無粋やけれど、違法ではないから。花代が支払われる以上、文句は言えへん」

テロップ(説明)
花代=舞妓を招いて行う宴会の料金。

知恵利「烏森さんは、その・・・奈々緒さんのことがよっぽどお好きでいらっしゃるんですね」
奈々緒「ほんなピュアなもんやないけどな・・・」
着付けの手を進めながら考える知恵利。
知恵利(M)「奈々緒さん、さっき蒼真さんと話していたこと、私には知られたくないんだ」
解毒剤って何のこと? 痣と関係あるの? 聞けるはずない。
というより教えてくれるはずがない。でも、知りたい・・・」
知恵利「あの、今夜のお席、わたしもご一緒してはいけませんか?」
奈々緒「は? ポチが?」
知恵利「はい。その、仕込みの一環としてっていうか・・・現場見学です」
奈々緒「話聞いてたか? 普通のお客さんやったら考えなくもないけど、烏森は、倍額の花代支払って、一人の舞妓を拘束するような、相当やばい男やねん。お前が目をつけられたらどうする?」
知恵利、一瞬ぎょっとなって。
奈々緒、知恵利の顔を正面から見て、頬に手を当てる。
真剣なまなざしで。
奈々緒「ポチに危険が及んだら自分が傷つくよりもっとつらい」
知恵利を抱きしめる奈々緒。
知恵利(M)「それは私も同じーーーだからーーー」

○お茶屋・玄関(夜)
建物の前で、息を切らしながら、仁王立ちしている知恵利。
知恵利(M)「奈々緒さんが乗ったタクシー追いかけてついて着ちゃった! 校内マラソン毎年1位の脚力をこんなところで披露するとは思わなかったなっ!」

知恵利「さてと。ここまではいいんだけど、中に入るのはさすがに住居不法侵入で捕まるよね・・・・でも、中に入らないとここまで来た意味が・・・」
と、知恵利の後ろに黒塗りのタクシーが止まる。
急いで軒の隅に身を隠す知恵利。
タクシーから、仕立ての良いスーツを着た、高身長の男性が降りてくる。
目鼻立ちの整った30歳前後の美青年。
知恵利(M)「わぁ・・・THE御曹司! ドラマに出てくる俳優さんみたい! この人が烏森さん?! 奈々緒さんにひどいことしたら、許さないんだから!」
ポケットのストラップをぎゅっと握りしめる知恵利。
烏森が玄関からお茶屋に入っていく。
知恵利(M)「表からの侵入は難しい。こうなったら・・・!」

○同・庭
部屋に近い位置に身を隠している知恵利
知恵利(M)「今日のわたしスパイなのかな・・・」
ふと我に返って恥ずかしくなる知恵利。

○お茶屋・宴席
障子窓から、身を潜めながら部屋の様子を見ている知恵利。
その姿に室内の人間は誰も気づいていない。

○同・室内
烏森と奈々緒。部屋の隅に烏森のSPが一人。
烏森に奈々緒がお酌をしている。
奈々緒(M)「また二人っきりにされてしもた・・・。このお茶屋の女将(おかみ)も絶対に烏森に金つかまされとる。間違いないわ・・・でなかったら毎回毎回こんなーーー」
イライラを押さえている奈々緒。
烏森「奈々緒くん」
奈々緒に体を密着させて、着物の中に手を滑り込ませる烏森。
奈々緒のお猪口に薬のような粉状のものを入れる。
奈々緒(M)「離せ・・・殺すぞボケ・・・」
烏森「手荒なまねはしたくないんだ。わかるな?」
烏森のジャケットの内側に解毒剤の小ビンが入っている見つける。
奈々緒(M)「あれは・・・!!!」
お猪口を奈々緒の口元へ運ぶ烏森。
烏森「これを飲めば、奈々緒くんは一生幸せに暮らせる。私の側に一生いてくれさえすればいい。
欲しいものは全て与えるし、願いは何でも叶えてあげる」
奈々緒「なんでも?」
烏森「そうだ。なんでも言ってごらん」
奈々緒「せやったら、もう二度と僕の前にあらわれんといてください。僕は絶対にあなたのものになんかならへん・・・こんなものがあるから・・・!
奈々緒、烏森につかみかかり、ジャケットから解毒剤を奪い取ろうとする。
が、奈々緒よりも背丈の大きい烏森。
長い足で奈々緒を思いっきり蹴り飛ばす。
奈々緒「うっ!」
知恵利「!」
烏森が奈々緒の着物を強引に剥く。
背中の痣が露わになる。
烏森「もう手後れだ。お前の体はもう呪いに侵されいる! これを飲めば体内の時間が止まり、完全体の舞妓になれる! お前の母親と同じように永遠に!」
知恵利(M)「その呪いって・・」

インサート
#1 枝垂れ桜の木の下、知恵利と奈々緒のやりとり。

烏森「そして、お前は一生私の人形だ」
烏森を見る奈々緒。
奈々緒「モテへん男はホンマやっかいやで・・・」
ゴミを見るような視線で言い捨てる。
激昂する烏森。
烏森、奈々緒をさらに蹴飛ばそうと、足を振り上げる。
その時。
知恵利がバンッと勢いよく襖を開けて入ってくる。
知恵利「奈々緒さんにひどいことしないで!!」
奈々緒「知恵利!?」
驚く奈々緒。
知恵利の後ろには、お茶屋の女将や他の芸妓らの姿も。
烏森「なんだお前は! ふざけるな!」
烏森が知恵利につかみかかる。
知恵利「きゃ!」
烏森の拳が知恵利の上に掲げられる。
と、奈々緒が割り込んで烏森の顔面に鉄拳をくらわす。
烏森「ぎゃ!」
ひっくり返る烏森。
女将や芸妓らも、悲鳴を上げる。
奈々緒、部屋の隅で控えていたSPに羽交い締めにされる。
奈々緒「ふざけんなはこっちのセリフや非モテ御曹司、ええ加減にせえよ!」
烏森、鋭く奈々緒をにらみ付けて、
烏森「許さん。奈々緒。花街で俺に刃向かったらどうなるかを思い知らせてやる。
見ていろ・・・。お前は自分から俺の元に、跪いて許しを請うことになるからな」
捨て台詞のように言い放ち、SPに目線で指示をしてから部屋を出て行く烏森。
女将たちは烏森には気を掛ける。
が、奈々緒と知恵利には、気の毒そうな視線を向けながらも、声すら掛けずに去っていく。
知恵利(M)「なんで? みんな見てたのに? どうして誰も助けてくれないの?」
奈々緒「知恵利、逃げて」
知恵利「え? 奈々緒さん、どういうことーーー」
と、部屋に屈強な男たちが入って来て、奈々緒を縛り上げる。
知恵利「!!!」
男たちの前で、恐怖におののく知恵利。
声も出せないほど、全身がひどく震えていて、身動きができない
奈々緒「僕は逃げませんから、この子には絶対に手を出さんといてください」
男たちは返事をせず、黙って奈々緒を連れ去る。
その時、奈々緒の袂から知恵利とおそろいで買った舞妓のストラップが落ちる。
知恵利はその姿を見ていることしかできずーーーー

(第4話 大好きとさよなら 以上)
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