破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます

プロローグ

 いつもの朝支度。ドレッサーの前でメイドに髪をとかしてもらっていた時だった。
 頭の中に突然不思議な光景が流れ込んでくる。
 
 長方形のなにかを手に持ち、それを猫背で食い入るように見つめる黒髪の女性の後ろ姿。
 いや、知っている。
 これはスマートフォンで、この人はいまゲームをしているんだ……。

 スマートフォン? ゲーム?

 その女性が顔を上げて振り返る。
 これは――わたし!?
 
「ドリスお嬢様、どうかなさいましたか?」

 髪を結っているメイドの声で、意識を引き戻される。
 手を止めて鏡越しに心配そうな顔で見つめてくるのは、メイドのハンナだ。

 視線を鏡に映る自分の顔に戻せば、そこには14歳のわたしがいる。
 父親譲りの艶やかな黒髪と紫紺の目、母親譲りの端整な顔立ちのドリス・エーレンベルク伯爵令嬢。

 ――――!
 ドリス・エーレンベルクですって!?
 
 動揺のあまり上半身がグラっと傾いだ。そのまま椅子から滑り落ち、膝をついて絨毯にうずくまる。
「ドリスお嬢様! 大丈夫ですか!?」
 ハンナが驚いて大声をあげる。
 
 やめて……その名前で呼ばないで……!
 両手で耳を塞いで首を横に振った。

 黒髪で紫紺の目を持つドリス・エーレンベルク。
 それは、前世で遊んでいた乙女ゲーム『遥かなる茜空』に登場する悪役令嬢キャラの名前だ。

 この日わたしは前世の記憶を思い出すとともに、ここがゲームの世界であることを知った。

 
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