破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
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 ミヒャエルによるアッヘンバッハ男爵家への資金援助が始まったのは、オスカーが16歳の時。
 当時オスカーは実父の後妻との折り合いが悪く、虐待を受けていた。
 実母が病気のために亡くなったのは彼が10歳の時で、後妻のカサンドラがやって来たのがその翌年。
 
 実父との間に息子が生まれると、カサンドラは自分の子を後継ぎに据えようと画策した。前妻の子であるオスカーを邪険に扱い、出来の悪い子だと罵倒するようになる。
 しかも若くて綺麗なカサンドラに篭絡されていた実父は、オスカーの味方にはなってくれないどころかカサンドラと一緒になって彼を蔑んだのだ。
 
 オスカーはろくな食事を与えられず、倉庫のような粗末な小屋で寝泊まりさせられて下っ端の使用人のような扱いを受けていた。
 そんなオスカーの心のよりどころは、貴族学校への入学。
 16歳になれば貴族学校から入学通知が送られてくる。入学したら学生寮に住む手続きをして家を離れようと思いながら耐えていたオスカーだったが、その唯一の希望はもろくも砕かれた。
 
「馬鹿な子なんだから学校に行かせてもお金の無駄よ」
 通知を見つけたカサンドラはオスカーの目の前でその入学通知を燃やしたのだ。
 オスカーはやめてくれと懇願し、灰になってしまった通知書をかき集めて涙を流した。
 カサンドラはその様子を見ながら高らかに笑い続けるような、ひどく残酷な女だった。
 地獄のような場所からオスカーを救い出したのが、ミヒャエル・エーレンベルク伯爵だ。
 
 アッヘンバッハ男爵家の嫡男がまるで使用人のような扱いを受けているらしいとの噂が、ミヒャエルの耳にも届いた。
 たまにうちに遊びに来ていたあのオスカーが!?と驚いたミヒャエルは、すぐさま事実関係の調査。噂が本当だと確認すると、オスカーの保護へと動き出す。
 
 真正面からアッヘンバッハ男爵を糾弾しても、カサンドラに操られている状態では反省もせずごまかすに違いない。そう考えたミヒャエルは、オスカーをエーレンベルク伯爵家で預かって後継者として育てたいと申し出たのだ。
 オスカーが貴族学校へ通う学費や生活費の面倒はこちらが負担する。さらには男爵家への資金提供もするという条件を付けて。
 カサンドラが贅沢の限りを尽くし財産が減る一方のアッヘンバッハ男爵は、二つ返事でこれに飛びついた。
 
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