破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
 この人生が破滅に向かわないように、いまできることをやっていこう。
 ベッドを抜け出して机に向かった。
 前世の記憶が戻ったとはいえ、ところどころ抜け落ちている箇所がある。もしかするとこの記憶は一時的なもので、いつか完全に忘れてしまうかもしれない。
 
 机も椅子も、もちろんショッキングピンクだ。きっと最高級の木材を使用して作られているはずなのに、この色のせいで安っぽく見える。
 自分の趣味の悪さにため息をつきながら机の引き出しを開けた。
 ペンとノートを取り出すと、ゲームシナリオや今後起こる予定のイベントを思い出せるだけ書き留め……ようとして、すぐに手を止めた。

 ちょっと! この子ったら、字が汚すぎない!?

 とても14歳とは思えない、幼い子が書くようなミミズ文字だ。
 これじゃ読めないじゃないの!
 
 腹が立ってペンを放り投げたくなる衝動をどうにか堪えた。
 そうだ、悪役令嬢ドリス・エーレンベルクはとにかく短気でわがままでヒステリックなのだ。
 この程度のことで激高してはならない。
 感情を上手にコントロールしなければ、悪役令嬢という設定に飲み込まれてしまうかもしれない。

 大きく深呼吸をする。
 冷静になるよう自分に言い聞かせながら、文字よりも絵を多めにした。
 この方法が大成功だった。文字だけで書くよりも断然早い。
 
 前世で絵が得意だったことがこんな形で活きることになろうとは!
 それにもしも誰かにこのノートを見られても、ただの落書きだと言えば済むだろう。
 
 ドリスが贅沢ざんまいを繰り広げる様子、ミヒャエルとオスカーにわがままを言って困らせる様子、入学式でヒロインを怒鳴りつける様子、学園生活中にヒロインに陰湿な嫌がらせをする様子……。
 夢中で書いているうちに、どれぐらい時間が経っていたのだろうか。
 ドアをノックする音が聞こえて顔を上げた。
 
< 5 / 72 >

この作品をシェア

pagetop