泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた

14話 後編

「浅田を呼び出しておいたから、今から来い。例の()()()()って子も連れてな」
 朝一の電話口で、宮永さんからそう告げられた。

 昨日、警察署で和住は隠し持ったスマホを通話モードにしたまま、浅田と話していた。俺はそこで奴らの会話を聞いた。
 すると、浅田は相棒の刑事を追い払って、警備という名目で幸希と二人きりになろうとした。
 俺はその瞬間、浅田が幸希に何かしようと企んでいると確信した。
 俺は和住に、浅田をどこかで撒いて、あの場所で落ち合おうと指示した。
 
 ――凛からの頼み事なんて珍しいからな。むしろ、もっと言ってほしいもんだね。
 
 俺はあの時の言葉を思い出し、ダメもとで宮永さんを頼った。
 ほとぼりが冷めるまでの間、幸希を宮永さんの元で匿ってほしい、と。
 その間に、俺は「幸希に手を出すな」と浅田に直接頼むつもりだった。つまり、「幸希の代わりに、石井殺しの実行犯を始末してくれ」ということだ。
 金で解決するのならば、いくらだって出すつもりだった。
 万が一、浅田が俺の交渉に応じないようならば、あいつを殺すくらいの覚悟はあった。
 
 宮永さんは意外にも、俺の頼みをあっさり了承してくれた。
 その上、次の日には「浅田を呼び出しておいたから、今から来い」と、浅田との交渉の場を勝手に用意した。この部分に関しては、正直有難迷惑だ。
 浅田とはいずれ直接話すつもりだったが、こちらにも心の準備というものがある。
 なんせ、下手すれば俺は浅田を殺すことになるかもしれない。
 流石の俺でも、次の日の朝いきなり腹を(くく)れと言われるのは酷なことだ。
 宮永さんはそれを分かっていながら、俺の困った顔が見たいがために、浅田との話し合いの場を用意したのだろう。
 本当に悪趣味な人だ。
< 21 / 28 >

この作品をシェア

pagetop