泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた
 宮永さんに呼び出された駐車場で浅田と対峙した。
「いやぁ、酒々井さん、お久りぶりですねー」
 浅田はヘラヘラと張り付けたような笑みをこちらに向けてくる。
「大方の話は宮永さんから窺っていますよ。いやだなー、私が一般市民を傷つけたりするわけないじゃないですかー」
 浅田は俺の肩を掴むと、口を俺の耳元に寄せる。
「……まあ、お前が上手いこと俺に口裏を合わせてくれるなら、の話だがな」
 浅田は突然物腰柔らかな口調を崩し、どすの利いた低い声で俺を脅してきた。
 これがこの男の本性だ。
「やっぱり石井を殺させたのはお前か」
「何のことだろうなぁ?」
 浅田はこの期に及んで、とぼけたように首を傾げる。
「まあ、仮にお前の()()が事実だったとしよう。そうだったとして、……お前らみたいなクズをどう扱おうが俺の勝手だろ?社会のゴミのくせに、俺に盾突きやがって……。石井を撃った奴も使い物にならねぇ。威勢だけは良かったんだけどな。顔くらい隠せばいいものを、顔見られた挙句、目撃者生かしたまま逃げやがった」
 浅田はケタケタと笑う。
 
「……お前、昨日彼女に何しようとした?」
「何って、何も?」
「とぼけんじゃねぇよ。テメェの相棒と和住追い払って彼女と二人きりになろうとしただろ」
 俺の言葉に、浅田は吹き出した。
「あはははっ!俺は結構寛容な人間でねぇ。人間、一度くらいは失敗することがあるだろ?俺は一度の失敗は見逃してやるんだ。だから、あの半グレに『日付が変わるまでに女を殺せ。次しくじったらお前を始末するから』って言っておいたんだ。俺はその手助けをしてやろうと思っただけだよ」
 俺が思った通り、浅田は幸希を実行犯に殺させるつもりだったようだ。
 
 俺はヘラヘラとした軽い態度で話す浅田を見て、今にも殴りかかりたくなる。
 右の拳がブルブルと震えるのを必死に抑えた。
「俺のことを殴るのは大いに結構だが、そしたら公務執行妨害でしょっぴいてやるよ。あと、俺が今話したこと他の奴らに喋ったら、あの女犯してその写真ばら撒いてやるから覚悟しろよ」
 浅田はそう言ってニヤニヤと笑う。
 俺ははらわたが煮えくり返りそうだった。
 
 殺したい。
 殺して、こいつの減らず口を塞いでやりたい。

 浅田は怒りに震える俺を見て、嘲り笑う。
「でもまあ、いい収穫があったよ。なかなかしっぽ出さねぇ酒々井くんの()()が分かったからなぁ。これからはお互い仲良くしような」
 浅田はヘラヘラと笑いながら、俺の背中をバシッと叩いた。
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