泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた

後日談 前編

 あれから一か月が経った。
 私は再び弁当屋で働いている。
 常連客には、突然店が潰れて程なくして再び営業するようになった件について、いろいろと訊かれた。
 私は説明すれば長くなる上に、店の経営にヤクザが関わっているとは言えないので、「いろいろありまして」と濁した。
 
 経営者が凛ちゃんに変わったことで、店の経営に関して変わったことが二つかある。
 一つは、凛ちゃんの紹介で食材の仕入れ先が変わったことだ。
 以前と変わらない品質の食材を、安く仕入れることができるようになった。原価が安くなったことで、商品を少し値下げした。
 もう一つは、凛ちゃんの勧めでチラシのポスティングやSNSなど、販促活動もするようになったことだ。
 それらの変更のおかげか、以前よりも弁当の売れ行きが良くなり、新規の客も増えた。
 そのため、一日に用意する弁当の量も増えて、調理面では以前よりも忙しい。しかし、経営面に関しては凛ちゃんに任せているので、トータルで考えると以前よりも楽になった。

 弁当屋の経営以外で以前と変わったことと言えば、私と凛ちゃんが恋人同士になったことだ。
 あの後、凛ちゃんの提案で、私たちは彼のマンションで同棲することになった。
 正直私は展開が早いと困惑したが、凛ちゃんは「お前みたいなぼんやりした女に一人暮らしは危ない」と言って強引に引っ越しをさせた。
 しかし、凛ちゃんとの生活はなかなか楽しいものだ。
 凛ちゃんに手料理を振る舞うと、彼は美味しそうに食べてくれる。私はその表情が好きで、以前よりも料理にやりがいを感じられるようになった。
 
 今住んでいるマンションは、私が前に住んでいたアパートよりも店との距離が離れている。
 しかし、凛ちゃんはいつも車で送り迎えをしてくれるので、全く不便ではない。
 この送り迎えに関しても初めは断ったのだが、以前と同じように「口答えするな」と言って毎度強引に乗車させられるので、抵抗するのを止めてしまった。
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