100日婚約~意地悪パイロットの溺愛攻撃には負けません~
日の出とジャングルジム。悔しいけど愛してる
和葉が一睡もできずに朝を迎えた七時間ほど前のこと――。
十九時半に羽田に到着を予定していた福岡便は、二十三時を過ぎても上空を飛んでいる。
コックピットから見える景色は黒く、眼下には分厚い雲が広がり強風に機体が揺れる。
離陸したのは十七時半だったが、持病のある乗客が機内で心臓発作を起こし、急遽、関西国際空港に降りることになった。
整備を終えるのを待ってから再び羽田に向けて飛び立ったのだが、その頃には天候が悪化し、滑走路の横風が規定値を超えているため着陸許可がなかなか出ない。
上空に待機していたのは一時間ほど。
同じように着陸許可を待つ航空機が羽田上空に渋滞するという異常事態で、燃料の心配から羽田への着陸を諦めざるを得なかった。
そういった場合、出発地点に引き返すルールなのだが、福岡空港の門限は二十二時で間に合わない。
成田を含め、近郊の空港は同じようにダイバード――目的地以外の空港への着陸を決めた航空機で混雑していた。
それで管制から指示されたのは中部国際空港で、今はそこに向かっている。
乗客が不満を訴えるのは当然で、キャビンクルーが説得してくれている状況だ。
迷惑をかけて申し訳ないが、ダイバードするしか方法がなかった。
中部国際空港まではあと十分弱。
高度を下げて雲に突入すれば機体に落雷し、キャビンから微かに悲鳴が聞こえた。
航空機は雷に耐えられる設計をされているが乗客の恐怖は理解でき、避けようがないのを申し訳なく思った。
(羽田ほどではないが、こっちもかなり悪天候だ)
この時間、全国的に大気が不安定で、視界不良ではない空港がない。
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