100日婚約~意地悪パイロットの溺愛攻撃には負けません~
『鍋を用意して待っているんですけど、もしかして食べて帰るんですか?』
帰宅を催促するような連絡をすれば、美玲の勝負を受けたことになりそうな気がしたからだ。
『いいの? 彼、今夜はあなたのところに帰らないかもしれないわよ?』
昼休みの美玲の言葉を思い出し、首を強く横に振った。
(私から連絡はしないけど大丈夫。キャプテンと食事して日付が変わる前には帰るはず。明日も勤務だもの)
テレビでは誰かが面白いことを言ったらしく、どっと笑いが起きていた。
こっちはハラハラして落ち着かないのにとムッとして、八つ当たりの心境で消すと、窓ガラスを激しく叩く雨の音に気づく。
(夕方よりずっと荒れてる。五十嵐さんはとっくに着陸しているからよかったけど、今飛んでいる便は大変そう)
夜勤の同僚たちも冷たい風雨を浴びながら整備をしているはずだ。
彼らの苦労に比べると、暖かな部屋の中で帰宅を待つ自分はお気楽な状況だと思い込もうとしたが――。
その晩、彼は帰宅しなかった。


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