100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
五十嵐に気づかれてしまった――いや、彼は最初から和葉がここにいるのをわかっていたはずだ。
『スカイエアライズの航空整備士です』
この前、得意げに自己紹介したのは、他でもない和葉なのだから。
(まさか、うちのコーパイだったなんて。どうしよう)
思い出しているのは、三日前の夜のこと――。

整備士は三交代のシフト制で勤務している。
八時から十七時までの早番を終えた和葉は、ひとり暮らしの自宅アパートの最寄り駅を通過して横浜駅で下車した。
そこから徒歩十分ほどの場所に建つ商業ビルの四階に『ランウェイ』という名の行きつけのバーがあり、席数二十のさほど広くない店内は壁や天井、棚のいたるところに航空機関連グッズが飾られている。
ここは飛行機好きの集う、マニアによるマニアのためのバーだ。
空が茜色に染まっても八月の外気は蒸し暑く、冷房の効いた店内に入った和葉はホッと息をついた。
テーブル席とカウンター席があり、八割ほどが埋まっている。
「和葉ちゃん、いらっしゃい」
チョビ髭の似合う四十代のマスターが笑顔で迎えてくれて、カウンター内でドリンクを作りながら目の前の席を勧めてくれた。
すると奥の四人掛けのテーブル席から、常連の男性ふたり組に呼ばれる。
「和葉ちゃん、こっちこっち」
彼らは三十以上も年上だが、居合わせると一緒にテーブルを囲む。
飛行機マニアは年齢や性別に関係なく仲良くなれるのだ。
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