想箱

ゾートロープ

 初デートの帰り道
 きみと一緒に
 列車の音を聴きながら

 カタン、カタンと
 揺られながら

 ウトウトしたきみが
 ぼくの肩に首を傾げる

 きっと早起きしたんだね

 美味しかったよ
 きみの作った玉子焼き

 安心して眠る寝顔は
 少し幼く見えた

 きっとはしゃぎ過ぎたんだね

 楽しみにしてたイルカショー
 水で濡れてセットが崩れたって
 怒ってた

 おろした前髪も可愛いよ

 途中の駅で停まるたび
 きみの重心が傾いてくる

 きみを守るぼくの責任も
 重くなるようだ


 きみにしか伝わらない
 言葉がある

 今日この瞬間にしか
 届かない
 言葉がある

 同じ言葉を

 昨日言っても
 明日言っても

 今この瞬間しか
 その言葉でしか

 伝えられない心がある

 他の誰かに言っても
 けして伝わらない

 ふたりこうやって
 積み重ねた日々が
 交わし合ってきた
 その言葉の先にしか

 きみにしか伝わらない

 その言葉があるんだよ


「起きてるでしょ?」

 図星を突かれたときのきみは
 鼻を小さくビクッとさせるよね

 でも今日は
 気づかないふりしようかな、

 車窓の外
 建物の隙間から夕陽が
 ゾートロープ(生命の輪)のように差し込んでくる

 ときおり車内を紅く染める夕陽が
 きみの耳が赤いのを隠してくれる

 あゝなんて綺麗な夕陽だろう

 カタン、カタンと揺られながら
 列車は走っていく

 夕陽は流れてゆく

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