入れ替え婚 ~妹に婚約者を奪われたら冷酷と噂の妹婚約者に溺愛されました~
 彰史との暮らしは相も変わらず、穏やかで、優しくて、温かい。円香は毎日とても満ち足りた気持ちで過ごしている。

 唯一、あの初体験の日だけは、二人の間に溝ができてしまったように感じたけれど、それもそのときかぎりのことであった。

 翌日の彰史はそれまで通りの彰史と何ら変わりなく、普段通りに円香に接してくれたのだ。あの晩のことを蒸し返すようなことはしなかった。

 彰史の大人な対応に、円香も引きずってはいけないとそれまでと同じように振る舞うことを心掛けた。

 そうすれば二人の関係は良好そのもので、家族としての絆は少しずつ深まっていった。

 夜の生活はといえば、初めてのあの日以降も彰史から求められて何度か体を重ねたけれど、初めてのときのように円香が泣くことはなかった。ただ、やはり朔也のことを思い出してしまうのではないかという恐怖は常に付きまとっている。

 彰史に触れられること自体に嫌な感情はないが、心をオープンにするのがとにかく怖くて、必死に何も考えないように耐えるのが精一杯。そのせいで円香はセックスにあまりいい感情を抱けないでいる。

 だが、それでも夜のことを除けば、彰史との生活には何の不満もなく、むしろ幸せと感じる瞬間も多い。だから今、円香は心からの笑みを浮かべて『大丈夫』だと言えるのだ。
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