愛していると言えなくて・・・
プロローグ
棺の中に横たわる彼女の顔は、まるで眠っているかのようだった。
今にも起き上がってあのいたずらっぽい笑顔で得意の減らず口を叩いてくるのではないか。

そう思わずにはいれなかった。

彼女の親戚かなにかだろうか。

親族席に座る僕の耳に老夫婦の話し声が聞こえてくる。

「可哀想に・・・まだ24でしょ?奈津子ちゃん。」

「本当になぁ。まだまだこれからだっていうのに・・・。」

「旦那さんもお気の毒にねぇ。結婚して一年だっていうのに・・・。」

僕の方を見ているのだろう。

席についてから彼女の遺影をずっと眺めている僕は、その視線を感じつつもそちらを見ようとはしない。

「旦那さん、奈津子ちゃんがもう長くないの知ってて結婚したんでしょ?」

「そうらしいな。なんて言っていいか、言葉が見つからんよ・・・。でも、奈津子ちゃん、幸せだったんじゃないかな」

本当にそうだろうか?

この一年、彼女はどんな思いで僕とすごしてきたんだろうか?

「なぁ、奈津子。教えてくれないか?」

そうつぶやいた僕に、写真の中の彼女が笑いかけている。
いつもと同じようないたずらっぽい笑顔で・・・。
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop