日常を返せ!

家族の態度

「ただいまー」

「おかえりなさい!」

 わたしが玄関の扉を開けると、母がどたどたと足音を立てながら玄関へ走って来た。

 誘拐事件が起きてから、わたしがまたいなくなるのではないか不安らしく、帰る度に走ってわたしを迎えている。

「ご飯できているから、食べましょう」

「うん」

 母に促されてリビングに向かうと、出来立ての温かい食事が用意されていた。

 食事はわたしの好物しか並んでいない。

 対面に母が座り、微笑みながらわたしの食事を見つめている。

「いただきます」

「はい、どうぞ」

 わたしが食事を口にするたびにニコニコと笑って眺める母の視線が居心地悪く、箸を動かす手が遅くなってしまう。

「ただいま」

 なんとかわたしの食事が終わった頃に、玄関から父の声が聞こえた。

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