御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
 それからというもの、弘樹は感情が表に出にくい私の性格を理解して、言葉巧みに気持ちを聞き出そうとするようになっていく。
 私が場に合わせた反応を返せなかったときは、笑いに変えてしまう。弘樹のおかげで場の空気を悪くさせることもなく、その気遣いがありがたかった。

 素の自分を受け入れてくれる弘樹と一緒にいたい。そう思えたから、彼から申し込まれた交際を承諾した。

 付き合いはじめた当初は、恋人として上手くやっていたと思う。
 けれど一緒に過ごす時間が長くなるにつれて、私たちの関係性は変化していく。受け入れてくれたと思っていた私の欠点を、彼が不満に感じるようになったのだ。

 周りに目を向ければ、私とタイプの違う素直でかわいい女の子がたくさんいる。
 昨日だって、フリーだと言って積極的に男性陣に話しかけている子がいた。弘樹もそれに笑顔で応じていた。
 私のような面倒な女といるよりもずっと楽しいと、気づいてしまっただろうか。

 時間通りにやってきた電車に、押されるようにして乗り込む。目の前の窓には、なんの感情も感じさせない自分の顔が映っていた。

 弘樹は、友人を巻き込んだ交流を好む人だ。
 以前は彼の参加するフットサルの練習に私も連れて行ってくれたり、その飲み会にも同席させてくれたりした。

 苦手だからと拒んでばかりいてはだめだと気合を入れてついていったが、どうしても上手く立ち回れない。会話をつなげられなくて、気まずい思いをさせてしまう。
 彼だって友人と盛り上がりたいときもあり、いつもフォローを入れられるわけではない。
 そんな状況が数回続き、次第にまったく誘われなくなっていた。

 弘樹が私に向けた笑顔を、最後に見たのはいつだったか。思い出せない自分に気づいて愕然とする。それどころか、甘い時間を過ごした記憶もすっかり薄れている。
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