君はもう僕のものだ〜私の知らない彼の執着〜

4.元婚約者が処刑される席で、よくもイチャイチャと⋯⋯。

牢にいる間の生活は最悪だった。

私には魔女である疑いがかかっていて、危険であると足を鎖に繋がれた。

小太りに無精髭の看守が私が全く食事に手をつけていないのを指摘する。

「また、食事をとってないのか⋯⋯」
「お腹が空いてないので⋯⋯」

お腹なんか空くわけがない。
モリアが現れてから、信じられないことばかりで食事が喉を通りづらくなっていた。

「にしても、良い女だな」
急に私の唇を指でなぞってきた看守にゾッとする。
このような無礼をはたらかれていると言うことは、私は地位を失う可能性が高い。

「おやめ下さい! 無礼ですよ⋯⋯」

私は言葉が続かなかった。
看守が突然私を押し倒してきたのだ。

「や、やめて!」
私が叫んだ瞬間、看守が火だるまになり転がった。
牢からの焦げ臭い匂いに、騎士たちが押し寄せる。

「魔女だ!」
私は、やってきた騎士に地面に押し付けられた。
(本当になんでこんなことに⋯⋯)

私の管理はより厳重になり、鎖に繋がれた上に目隠しをさせられた。
何日経ったかもわからないある日訪れたのは私の父だった。

「なんて様だ。お前が魔女の血を引いているという事はお前は私の子ではない⋯⋯リリアはとんでもない不貞を働いていたんだな」
「待ってください。お父様! 私は魔女ではありませんし、お母様も不貞を働くような方ではありません」

母は人目を引く派手な見た目とは裏腹に真面目な女性だ。
不貞を働いた上に、托卵するような人ではない。

万が一、私が父の子ではないとしても、母がすすんで他の男と関係を持ったとは考え難い。
お父様が、母が告白できないような恐ろしい目に遭って私を孕った可能性を少しも見出してないのが悲しい。

「ルカ! お前も王太子殿下がいながら、多数の男と内通していたそうじゃないか。血は争えんな。お前のような女は極刑で良いと陛下にもお伝えしたよ」

私は急に父より怒鳴りつけられて驚いてしまった。

「私は殿下以外の男性とは、ほとんど会話さえした事がありません」
私の返した言葉に返事はなかった。
足音が遠ざかっていくのが聞こえて、私は父が私の弁明を聞く気がなく去ったのだと悟った。
(どうして出鱈目な情報ばかりが出回っているの? それに極刑って)

何日か経った時、私は目隠しをされたまま髪を切られているのが分かった。
おそらく王族の命を狙ったことで斬首刑との判決がくだったのだろう。

後ろ手に拘束されながら、私は促されるままに重たい足を持ち上げた。
この状況を打破する手段など思いつかない程、私は疲弊し絶望していた。

外に出たのだろう、目隠し越しに眩しい光を感じる。
多くの怒号や私を非難する声がするが、何も気にならない。
ただ、この地獄の終わりを待っていた。

「きゃっ!」
階段があったのか、思わず転んでしまった。
その拍子に目隠しが取れる。

目を開いて最初に会ったのは、私の愛したクリスがモリアを愛でてる姿だった。
(元婚約者が処刑される席で、よくもイチャイチャと⋯⋯)

死んでいた私の心に、一気に怒りの炎がともる。
その瞬間、私の周りが私を守るように炎で包まれた。

「魔女だー!」
私に向かって何か投げられた気がするが、一瞬にして消えていく。

見たこともないような黒い炎だ。
(前は赤い炎だったのに何で?)

「そこまでにしましょうか。ルカリエ様」
その時、落ち着いた低い声がしたかと思うと私の発した炎は消えていった。

炎の壁の先にいたのは、私の未来の夫となる麗しい黒髪と黒い瞳を持つレオナルド・マサスだった。


< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop