好きなのは、嘘じゃない。

恋は苦いもの



「またフラれたあああああ」

朝の教室。こんなことを大声で言う私には
もう恥というものはとっくの昔に捨てた。

「ほんと今回で何度目よ?」

呆れた顔で私を見て笑う、親友のマユ。

数えるのを諦めたいほどに、フラれた。
けど、本当は覚えている。

篠山 春 17歳

今日で、5回目の失恋を迎えました。

「5回目です」

「そっか」


よしよしと、私の頭を撫でるマユ。
なんやかんや言ってマユは優しい。言葉選びが悪いだけで、本当は誰よりも優しいってこと、私は知っている。


「あんたもさ、少しは近くを見たら?」

ジュースをずずっと飲み干して、マユは教室全体を見回す。

「…近く?」

近くなら、見ているつもり。だからいつも近くの人を好きになってフラれるんだ。…この間フラれた先輩だってそうだ。


「またお前はフラれたのかよ」

げっと思わず声が出た。

後ろを振り返ると、

今1番会いたくない人の顔。

奴は面白そうに笑っている。

「うるさいなぁ、私だって好きでフラれてない」

ぷいっと背を向けると、
へぇと意地悪そうな声が私の隣に座る。

「だから言っただろ、あの先輩は彼女いるって。ほんとちょろいんだからお前は」

"ちょろいんだからお前は"
その言葉を聞いて私は、肩を落とす。

…ちょろいよ、でも好きだった。
彼女いることなんて知っていたけれど
それでも好きだったんだもん。


「ちょろいのが、可愛いのよ。春は」

ね?と、また私の頭を撫でるマユ。
マユの優しさにまた涙が溢れそうになる。

「咲夜にはわからないよ!いつも告白される側だもん」

──月沢 咲夜

いつも女の子からキャーキャー言われてる
私の唯一の男友達。
私だって最初は、かっこいいってマユに言って
騒いでいたけれどそんな瞬間は短く
気づいた時にはいつも咲夜が隣にいた。

いつから仲良くなったんだっけ
どっちから話かけたんだっけ
なんの話してたんだっけ

そんなことはもう忘れてしまった。
忘れてしまうほど、近くにいたから。


「まぁな。俺はお前みたいにちょろくねーから」

こんなにバカにされても、笑われても
なぜか咲夜のことは嫌いになれない。

今だって、うるさいなって言い返してやりたいけど
なんか言い難い。

口を開かない私を見て、咲夜は不思議そうにしている。


「なんだよ、言い返してこねーのかよ」

「だって、私。ちょろいんだもん」

誰からでも可愛いねって言われたら
ドキドキするし、その人のことを考えてしまう。
結局、目で追って
最終的には好きになって、フラれる。
これが今までで5回。

はぁ、とため息をつくと
朝のチャイムが鳴る。
マユはじゃあねと言って
慌てた足取りで教室に戻って行ってしまった。




「…俺が好きだって言ったらどうする」


え、と思わず声がでて
咲夜を見上げるとそこにいたのは
頬を染めた見慣れない顔の咲夜。

小さな声だったけれど確かに聞こえた。

「今日は…4月の1日」

私は、そんな嘘通じない。
ドキッとしたのは本当、危なかったけれど。


「バレたか」

またそうやって意地悪そうな顔でからかう。

じゃあ、と言って自分の席へ戻っていく咲夜を見て
体中の力が抜ける。

ドキドキとうるさいほどになる心臓。

…恋は苦いもの、それはもう何度も痛いほどにわかっている。

あんな甘いものじゃない。

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