素直に気持ちを言えたなら

 学校にもたくさん桜の木が植わっていて、心地良い風に薄ピンクの花びらが揺れる。


 校庭に出ると、グラウンドを走る彼がいてつい目で追ってしまった。


 うちの学校ではないユニフォームの生徒達もいる。きっとあの人達が今日の練習試合の他校の人達なのだろう。


 いつも練習、頑張ってるなぁ…。


 真剣に走る彼の横顔を見つめる。


 私も新入生にお祝いの気持ちを目一杯込めた、素敵な絵が描きたい。


 私は自分が入学した時のことを思い返してみた。


 高校生になったばかりの期待と不安を抱えていたあの頃。


 いつだって彼が傍にいて、それだけで私の不安は嘘みたいに消えていった。


「…うん、これにしよう」


 描きたいイメージがまとまる。


 春の花々が咲き乱れ、桜の舞い散る中、手を繋ぐ男女の生徒。


 新入生に喜んでもらえますように。


 そう願いながら描き進めていく。


 それと同時に、私はゆっくりと決意を固めたのだった。


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