強引社長は才色兼備のOLにご執心 ~そのキス、どういうつもりですか?~
だけど涙は止まらなかった。今まで強がっていたせいだろうか。こんなに泣いたのはいつぶりだろう。
さすがにそろそろ落ち着こうと深呼吸をする。
その時だ。誰もいないはずのオフィスの扉が開き、次の瞬間聞き慣れた声が部屋に響く。

「なんだ、芹澤。まだ帰ってなかったのか? もう20時回る、ぞ……え、」

人が来たのに驚いて、反射的に振り向いてしまった。涙でぐしゃぐしゃの顔で。あーもう最悪!よりによってなんで社長!?直帰するんじゃなかったの!?

「おまえ…泣いてるのか?」
「…泣いてません」
「えー、それは無理があるだろ」

分かってる。こんな顔と声で泣いてないとか、何言ってんだって思うもん。でも認めたくない。社長に泣き顔を見られたことを認めたくない。
社長の視線から逃れるように俯く。びっくりして涙は止まったけれど、明日は酷い顔になるだろう。休みでよかった。腫れぼったい目で出勤することにはならなくて。

忘れ物でも取りに来たのか社長はオフィスに入ってくる。そしてあろうことか私の横にくると、ずいっと顔を覗き込んだ。
ちょっと、隠したのにそんなガン見しないで…と文句を口にしようとしたのに。

「どうした? 何かあったんだろ。芹澤が泣くなんてよっぽどのことだな。話してみろ」

あくまで強引なのは、いつも私に仕事を頼んでくるのと変わらないのに。口調が優しくて、社長ってこんな顔もできるんだってくらい真剣な表情で。
引っ込んだはずの涙が、ぶわわっと舞い戻ってくるように溢れた。
社長が慌てているのが滲んだ視界に映る。
ふと、私を泣き止ませようとあたふたしていた社長が黙った。泣きすぎて引き攣る呼吸音だけが響く中、一段と低いバリトンボイスで囁かれた。

「…おまえ、泣き顔も綺麗なのな」

は? ぽろりと雫が落ちる。私は信じられない気持ちで社長の顔を見た。ぼやけているけれど、近くにある整った顔が未だ真剣にこちらを見ていた。

「そんな泣くなよ」

そう、呟いたかと思ったら。
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