スイーツ王子の溺愛はケーキよりもなお甘い


「今日はあいつはいないんだな?」

 兵頭は喫茶スペースに視線をやると、カウンターに肘を置いた。

「この間、あそこに座っていたのは最近テレビで話題になってる『スイーツ王子』だろ?」

 兵頭が柊登の顔と名前を知っているとは意外だった。兵頭のこれまでの言動を鑑みると、女性以外のものに関心を向けるとは到底思えない。

「存じ上げません」
「しらばっくれたって無駄だ。俺はわかってるんだ」

 兵頭はグヘヘともったいぶってみせた。
 
「あいつの店で買った食べ物で腹を壊したって、保健所に通報したらどうなるかな?営業停止か?」

 結乃の顔からサーっと血の気が引いていく。
 兵頭はあろうことか、食中毒をでっちあげる気だ。
 たとえ通報が虚偽で、あとから身の潔白が証明されようと、保健所への通報は連日行列の絶えない柊登の店にとって大きなイメージダウンとなる。
 
「それともネットに書き込んでやろうか?女遊びの激しい最低男だってな」

 ネットと聞いて頭をよぎるのは柊登に見せてもらったあの口コミのことだ。

「ノエルの口コミも!壁の落書きも!貴方がやったんですか!?」
「だったらどうした?」

 結乃が悲鳴をあげると、兵頭はげひゃげひゃと下卑た笑い声を上げた。
 兵頭からは罪悪感のかけらも感じられなかった。

「もうやめて!」
「『お願いします。やめてください』だろ?」
「お願いします。やめてください……」
「やめてやってもいいが、見返りはあるんだろうな?」
「見返り?」
「お前の身体で支払え!」

 兵頭はズカズカとカウンターに乗り込むと、怯える結乃の手首をむんずと掴んだ。
 
「おら!来いっ!」
「きゃっ!」

 カウンターから無理矢理引きずり出された結乃はなす術なく、店外へと連れ出された。

< 48 / 59 >

この作品をシェア

pagetop