このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 そう思って、チャールズにはイリヤと二人きりのときには、甘い菓子を準備してほしいとお願いしておいた。実際に出てきたのは、個装されたチョコレートである。
 あれで甘い雰囲気になったのかどうかはわからないが、昨夜はタイミングが悪かったかもしれない。甘い雰囲気になったところで愛をささやくどころか、イリヤに聖女の身代わりになってほしいと言ってしまった。
 これは、前々から言われていた聖女不在の件――聖女はいるが赤ん坊で力がうまく使えない件と関係している。
 西のミルトの森に時空の歪みが確認されてから、そろそろ一年半になる。魔物の数は確実に増えている。
 人が住む場所の近くに魔物が現れたときは、騎士団を派遣し、その町の自警団と共に討伐を行っているが、終わりのない討伐にそろそろ不満が出始めている。
 聖女が現れたという事実を公表できれば、彼らだって希望を持つだろう。今はそれすらできない状態なのだ。聖女が現れた、それは赤ん坊だったと発表すれば、逆に彼らの士気も下がりかねない。
 マリアンヌを元の世界に戻し、新しい聖女を召喚するという案だけは前々から出ていた。それを実行に移せないでいるのは、次の聖女召喚が必ずしも成功するとは限らないからだ。
 また、エーヴァルトが一度召喚した聖女を、こちらの都合で勝手に返すというのは、聖女を崇めるマラカイト王国の民としてどうなのかと、それっぽいことを言い出したためでもある。
 今すぐではないが、時間をかけて聖女の成長を見守るか、成功保証のない聖女返還と召喚の儀を行うか。
 まして、前回の召喚から時間も経っていないこともあり、二度目の召喚は慎重に行うべきだという考えもあった。それは、召喚の儀を行う魔法使いたちの魔力のためでもある。
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