三角関係勃発!? 寝取り上司の溺愛注意報
一章 彼氏が浮気している件⑤
コピー室を出たところで、廊下の先に尚樹のうしろ姿を見つける。喫煙所から出てきたところのようだ。尚樹はまだ藤本のことで怒っているに違いない。その証拠に、昨日は連絡ひとつこなかった。沙耶も連絡をしなかったから、ひとのことは言えないのだったが。
沙耶は尚樹と話し合いをし直そうと、彼のあとを追った。
営業部の尚樹は鞄を持っているので、このまま外回りに出るのだろう。その前になんとか捕まえたい。
沙耶は急ぎ足で追いかけていくも、玄関ホールでいやな光景を見てしまい、足が止まる。
受付にいる田辺美保子と尚樹が、親しそうに話していたからだ。
田辺美保子は緩く巻かれた茶髪に、男受けしそうなかわいらしい顔立ちをしている。狙った男で落とせなかった者はいないという逸話もあり、沙耶は愕然としてその場で固まった。
「美保子、昨日は楽しかったな」
「はい、小林先輩に連れていってもらったカフェ、とても素敵でした~! また連れていってくださいね!」
その会話から、ひとり悶々としていた日曜日、尚樹は堂々と田辺美保子と会っていたことがわかってしまう。もう浮気をしていないなんて、きっと嘘に違いない。また騙されてしまったのだと、沙耶は悲しい気持ちになる。それでも長年積み重ねてきたふたりの時間は、沙耶を縛りつけていた。
(尚樹はもう昔の尚樹じゃないんだ……別れなくちゃ……でも、私の気持ちは――)
すると急に視界が暗くなり、沙耶は驚きに目を見張る。
「な、何!?」
「見るな」
「そ、その声っ……藤本課長?」
「ああ」
どうやら藤本が、沙耶のうしろから彼女の目を両手で隠しているらしい。突然のことに驚くも、とても見ていられない光景だったから、救われたような気持ちになった。
「課長……あ、ありがとうございます……」
「事務部に帰るぞ」
「はい……」
楽しそうに話す尚樹と田辺美保子を残し、沙耶は藤本に先導され仕事に戻っていく。
廊下を歩きながら、沙耶は前を行く藤本にそっと話しかけた。
「あの、課長」
「ん?」
藤本が立ち止まって振り返る。藤本の沙耶への気持ちが本物だったとしても、いまの沙耶には応えることはできない。それをわかっているのか、藤本はそれ以上無闇に距離を詰めようとはしてこない。そんな藤本の気遣いが、沙耶は何よりうれしかった。
「私のあと、ついてきたんですね」
苦笑する沙耶に、藤本はそっぽを向いて自身の頬をかく。
「いや。玄関ホールにある自販機で缶コーヒーでも買おうかと思っただけだから」
「自販機にさえ行かなかったのに?」
クスリと沙耶が笑みをこぼすと、藤本は照れたように笑った。
「なんだ、バレバレか」
「バレバレです」
クスクスと笑い合うと、沙耶のぐしゃぐしゃした気持ちがすうっと凪いでいく気がする。
「お気遣いうれしかったです」
「本当はこんなことしたくないんだけどな」
「え……」
戸惑う沙耶に、藤本が眉を下げる。
「小林に勝つには、自分をアピールするしかないだろう?」
「か、課長……」
(やっぱり課長は、私に本気なの?)
沙耶は惑いつつ、小さく言葉を続けた。
「課長はとっくに尚樹に勝ってますよ。課長の言葉の数々、私、うれしかったですから」
「宮城……いや沙耶」
藤本が真摯な面持ちで見つめてくる。
「俺じゃあ本当にダメか?」
「か、課長」
まっすぐな瞳に射貫かれそうになり、沙耶はドキドキしてしまう。
「いまは……すみません。何も応えられないんです。尚樹のことがあるから――」
「わかってる。だから待つつもりだから」
でもときどき気持ちが抑えられなくてな、と藤本は笑った。
沙耶は尚樹と話し合いをし直そうと、彼のあとを追った。
営業部の尚樹は鞄を持っているので、このまま外回りに出るのだろう。その前になんとか捕まえたい。
沙耶は急ぎ足で追いかけていくも、玄関ホールでいやな光景を見てしまい、足が止まる。
受付にいる田辺美保子と尚樹が、親しそうに話していたからだ。
田辺美保子は緩く巻かれた茶髪に、男受けしそうなかわいらしい顔立ちをしている。狙った男で落とせなかった者はいないという逸話もあり、沙耶は愕然としてその場で固まった。
「美保子、昨日は楽しかったな」
「はい、小林先輩に連れていってもらったカフェ、とても素敵でした~! また連れていってくださいね!」
その会話から、ひとり悶々としていた日曜日、尚樹は堂々と田辺美保子と会っていたことがわかってしまう。もう浮気をしていないなんて、きっと嘘に違いない。また騙されてしまったのだと、沙耶は悲しい気持ちになる。それでも長年積み重ねてきたふたりの時間は、沙耶を縛りつけていた。
(尚樹はもう昔の尚樹じゃないんだ……別れなくちゃ……でも、私の気持ちは――)
すると急に視界が暗くなり、沙耶は驚きに目を見張る。
「な、何!?」
「見るな」
「そ、その声っ……藤本課長?」
「ああ」
どうやら藤本が、沙耶のうしろから彼女の目を両手で隠しているらしい。突然のことに驚くも、とても見ていられない光景だったから、救われたような気持ちになった。
「課長……あ、ありがとうございます……」
「事務部に帰るぞ」
「はい……」
楽しそうに話す尚樹と田辺美保子を残し、沙耶は藤本に先導され仕事に戻っていく。
廊下を歩きながら、沙耶は前を行く藤本にそっと話しかけた。
「あの、課長」
「ん?」
藤本が立ち止まって振り返る。藤本の沙耶への気持ちが本物だったとしても、いまの沙耶には応えることはできない。それをわかっているのか、藤本はそれ以上無闇に距離を詰めようとはしてこない。そんな藤本の気遣いが、沙耶は何よりうれしかった。
「私のあと、ついてきたんですね」
苦笑する沙耶に、藤本はそっぽを向いて自身の頬をかく。
「いや。玄関ホールにある自販機で缶コーヒーでも買おうかと思っただけだから」
「自販機にさえ行かなかったのに?」
クスリと沙耶が笑みをこぼすと、藤本は照れたように笑った。
「なんだ、バレバレか」
「バレバレです」
クスクスと笑い合うと、沙耶のぐしゃぐしゃした気持ちがすうっと凪いでいく気がする。
「お気遣いうれしかったです」
「本当はこんなことしたくないんだけどな」
「え……」
戸惑う沙耶に、藤本が眉を下げる。
「小林に勝つには、自分をアピールするしかないだろう?」
「か、課長……」
(やっぱり課長は、私に本気なの?)
沙耶は惑いつつ、小さく言葉を続けた。
「課長はとっくに尚樹に勝ってますよ。課長の言葉の数々、私、うれしかったですから」
「宮城……いや沙耶」
藤本が真摯な面持ちで見つめてくる。
「俺じゃあ本当にダメか?」
「か、課長」
まっすぐな瞳に射貫かれそうになり、沙耶はドキドキしてしまう。
「いまは……すみません。何も応えられないんです。尚樹のことがあるから――」
「わかってる。だから待つつもりだから」
でもときどき気持ちが抑えられなくてな、と藤本は笑った。