王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜
「リセ、顔が赤いが」
「な、なんでもありません」
「いいか、くれぐれも……くれぐれも、クルト殿下に粗相のないように。……望まれたら応じなさい。エスメラルダ王国のためにも。分かるな、リセ」

 ……分からない。いきなり何を言っているのだ、父は。
 しかし眉間に皺を寄せたままの父は、至って大真面目のようだ。胃のあたりを擦りながら、リセを説き伏せようとしている。
 
「何を仰います、お父様。そんなことある訳が無いでしょう」
「その可能性があるから言っている。クルト殿下は明らかにリセを気に入っている」
「クルト様は大国ディアマンテの王子様ですよ」

 そう、クルトはディアマンテの第二王子。そのような可能性を考えることがそもそも失礼なのでは……
 


「……十年前、エスメラルダ王家から内命を受けた。リセには特定の相手を作らぬようにと」
「え?」
「当時は理由さえ教えられなかったが……今、私はこのためだったのだと思っている」

 そんなことは初耳だ。
 だから、リセには待てども待てども縁談が無かったということか。

「待って下さい、お父様……十年前って」

 あの数回に渡ったお茶会では、王子グラナードが最終的に公爵令嬢ルーナを婚約者に選んで終わった。側近候補も、きっと何人か選ばれたのだろう。
 ただ、リセはそれだけの事だと思っていた。まさかあのお茶会にディアマンテ王国の王子が紛れ込んでいるとは思いもしないし、その上クルトに近づいた自分がエスメラルダ王家から目を付けられていたなんて。



「リセがクルト殿下に選ばれたなら、ディアマンテとエスメラルダの関係はより良いものになるだろう」

 自分の知らぬところで、話が進む。

 十年前に開かれていたお茶会。
 王家から内命を受けた父。
 突然会いに来たクルト。
 リセを世話役に据えたグラナードとルーナ。
 


 なんの思惑にも気付かぬままだったリセは、混乱した。
 たったひとり、流れの中に取り残されたまま。父の書斎で立ち尽くしたのだった。

 



 
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