王子様のお世話役を仰せつかっておりますが。〜おせっかい令嬢は、隣国王子に執着される〜
 お茶会が終わりを告げるまで、少年には沢山の言葉を教えた。

『ケーキ』や『クッキー』を指さしながら。
『うれしい』や『たのしい』は表情をそえて。
 リセが言葉を教える度に、クルトはそのまま復唱する。彼は恐ろしい程に飲み込みが早く、教えたものは一度で覚えた。それが凄くて、面白くて。お茶会の時間はあっという間に過ぎ去って……

 お茶会もそろそろお開きというころ。
 不意に、少年から指をさされた。

「えっ?」
「なまえ」
「そっか、私の名前ね」
「そう、なまえ」
「私は、リセ。あなたは?」
「クルト。リセ、たのしい。すき」

 彼の言葉はとてもストレートで。
 片言ならではの素直な言葉は、幼いリセを有頂天にさせた。


 その後何度か開かれたお茶会にも、彼は現れた。
 会うたびに、リセは彼を構い倒した。「たのしい」というクルトの言葉を真に受けて。クルトも嫌がっているようには見えなくて……だからリセは調子に乗った。彼の隣は、リセの定位置になっていったのだった。

 そして彼の帰国が迫ったお茶会で。我がエスメラルダ王国の言葉がずいぶんと上達したクルトから、告げられたのだ。

「リセ、必ずまた会おう」と。


 いつか会おう、というだけの『約束』。
 それが『将来を誓い合った男』の真相だ。
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