Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
空は半分以上が暗くなり夜に変わろうとしていた。しかし、空のほんの一部分だけが抗うようにオレンジを見せている。

少女は普段ほとんど見上げることのない空を何も考えずに見ていたのだが、あるものを見つけて目が止まる。暗くなり始めた空を上っていく何かがあった。

「あれ何?煙?」

薄闇の中、空をゆっくりと煙が上っていく。最初は野焼きの煙かと少女は思った。しかし煙の上がっている方向は田畑ではなく、住宅街が広がっていたはずだ。

それは間違いなくいつもと違う光景である。少女の胸の中を不安が走った。しかし花火大会に胸を弾ませている人々は、誰も煙に気付いていない。

(誰かが窓を開けたまま料理でもしてるんだよ)

不安を誤魔化すかのように少女は心の中で呟く。しかし、空に上る煙は料理をしている際に発生するものとは比べ物にならない量だった。



2012年 宮崎県宮崎市 8月12日 午後七時半頃

一軒家やアパートが立ち並ぶごく普通の住宅街は、サイレンの音で騒然となっていた。花火大会に行っていたはずの人が規制線のギリギリまで近付き、驚愕した表情で目の前の光景を見つめている。目の前には炎に包まれたアパートがあった。
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