Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
Prologue Reincarnation
2012年 8月12日 宮崎県宮崎市 午後六時半頃

昼間、地面を焼き焦がすかのようにギラギラと輝いていた太陽はもう少しで沈もうとしている。しかしまだ蒸し暑く、歩いていると汗が吹き出していく。

そんな中、大勢の人が道を行き交っていた。人々の顔には笑顔があり、吹き出た汗を拭い、扇子やうちわで仰いで暑さをしのぐ。浴衣を着た人の姿も目立っていた。

今日は花火大会が開催される日だ。かなり規模の大きい大会のため、市外からも大勢の観光客が足を運ぶ特別な夜である。花火が打ち上げられる時間まで、人々は多く並んだ出店を楽しんでいた。

白地に青い紫陽花の花柄の浴衣を着た高校生らしき少女は、待ち合わせ場所である橋の前で友達を待っていた。友達はまだ来ない。

「しーちゃんも浴衣着るって言ってたからな……」

友達を待ちながらポツリと呟いた少女の声は、会場へと歩いて行く人の賑やかな声でかき消されていく。普段着慣れない浴衣と履き慣れない下駄に歩くスピードが落ちて遅れているのだろう。そう少女は思い、友達が来るのを空を見上げながら待ち続ける。
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