Prime Crown ~イロドリ男子と甘い誘惑~
story.02~遭遇~





「……」


(どうしよう)

どうしようもなく、どうしよう。


私は都内の通勤ラッシュ時間帯の電車を舐めていた。

まさかこんなにも、利用者でごった返しているなんて思いもよらず。漫画やドラマで見るあの満員電車の光景は多少なりとも演出が含まれるものなのかと思っていた。


(全然、演出なんかじゃない……)

既に電車のドアから体半分がはみ出しているにも関わらず、無理矢理にでも乗り込もうとする強情な人々。

それを引きはがす駅員さんもいれば、無理矢理押し込んで加勢する人もいる。


(絶対乗れないでしょこれ……)

満員電車のドアが閉まり発車するのを見送ると、私は次の行列の最後尾で絶望的な不安を感じながらその場に佇んでいた。

だけど、そんな私とは対照的に周囲に並ぶ先客たちはそんな情景も見慣れたものなのか、どこ吹く風で涼し気にスマホを弄ったり読書をしたりしている。


寮生になるのだから毎日ではないとは言え――

(これが当たり前の日常なんて、耐えられる気がしないんだけど……)


私はずっしりと重い何かを肩に背負ったまま、どうにか次の車両に無事に乗れることを祈って電車の到着を待っていた。

< 9 / 25 >

この作品をシェア

pagetop