眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
 けれど夜景を楽しむ暇もなく美雨はベッドルームへ連行され、柔らかなベッドの上に放り投げられた。かろうじてここまで引きずってきた杖が、敷き詰められた絨毯にぽとんと落ちた。
 混乱したまま起きあがろうとすれば、嶺人がのしかかってくる。乱れた前髪の奥の瞳はほの暗く光って、美雨だけを捉えていた。

「あの……っ」
「口答えは聞かないことにした」

 このときを待っていたと言わんばかりに、嶺人が口づけを再開する。降り注ぐようなキスを受けて、美雨はすぐに溺れてしまった。甘く痺れた思考の端で、ずるいわ、と思う。こうされるとどうしても抗えない。
 大人しくなった美雨に嶺人が満足げに笑う。ほんの少しだけ身を起こし、美雨の顔を見つめて邪魔な前髪を払った。

「今晩はキスだけで済むと思ったら大間違いだからな。今まで散々俺を振り回してきたのは美雨の方だ。正直、傷ついたし落ち込んでいる。慰めてもらわないと割に合わない」

 嶺人を仰ぎ見れば、確かに怒っているもののそれだけではないような気がした。精悍な眉は悲しげに下がっているし、むすっと引き結ばれた唇などはどちらかと言えば――。

(す、拗ねていらっしゃる……?)

 絶大な権力を持った岬グループの御曹司に対して、子供扱いするのは失礼だ。それなのに、美雨はぱちぱちと瞬きをして見入ってしまった。

「どうして、ですか……?」
「何がだ」
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